シネフロントベストテン投票

 4月末付けで以下のような投稿をしました。
2010年度ベストテン
【邦画】
こまどり姉妹がやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ!②春との旅必死剣鳥刺し④弁護士布施辰治⑤悪人
【洋画】
インビクタス/負けざる者たち②ずっとあなたを愛してる③フローズン・リバー④ミレニアム ドラゴンタトゥーの女⑤100歳の少年と12通の手紙
【感想】
 映画産業全体が製作、配給、興行といったすべての分野で非常な危機的状況となっていると聞いた。圧倒的多数の映画が製作費や配給経費を回収できず、地方の映画館は経営が成り立たない状況である。唯一東宝だけが一人勝ちであるが、このリーディング企業は映画産業の現状改善や未来のために汗をかこうとしない、とも言う。
 日本全体が人口減少社会に踏み込んでいることから、国民平均で映画館に行くのが年に一回という映画人口を少しでも改善しないといけない。映画産業・映画芸術がこの先、立ち行かないものになっていくのは明白である。
 あるいは映画批評の分野でも、新聞や雑誌に映画紹介はあっても映画芸術に対する論評は無きに等しい。それは映画専門誌、パンフレットにも及んでいる。監督や製作側の意図はインタビューや製作ノートで明らかになっても、映画を読み解きながらの解説、映画が描くテーマ、歴史、風土など映画鑑賞が深まるような紹介が少ないことに気づく。
 さて昨年の映画だが、邦洋画あわせて50本程度で、とても全体を見た評価は出来ないが、この1年で見た映画と言うことで選んだ。
 やはり『インビクタス』がいちばん良かった。C・イースドウッドがこんなにも鋭い国際感覚、歴史観を持っていたのかと改めて感心した。
 南アフリカアパルトヘイト廃止後大きく経済発展しているようだが(先進資本主義国に続く新興大BRICSと言われる)、国民一人ひとりの生活レベルや国情は困難を極めている。その時期に新生南アフリカの初代大統領ネルソン・マンデラの苦悩と狙いを率直に出す映画を作り上げたのは、驚きだ。
 アパルトヘイトを廃止する戦いもきわめて困難であったが、黒人と白人を統合し新しい国を作っていくのは、それとは別の困難があった。マンデラはその時点での最善を求め「真実は明らかにするが、罪は問わない」という画期的な和解策を見出した。これは迫害されてきた黒人には理解しがたいものであったが、彼は強力に推し進めた。ラグビー世界選手権優勝という事実は、マンデラに対する神の助力のようだ。
 それが感動的に伝わった。現在の情勢にあった方法を見つけ出して、それを実行するべきというメッセージは、われわれ日本にも当てはまるし、おそらく混乱する世界情勢を見ると、歴史的なメッセージだ。さらに現在の東日本大震災後には、どういう国造りをするのか、これまでの発想、やり方を大きく変えることが求められていると思う。
 『ずっとあなたを愛してる』『フローズン・リバー』は神戸映画サークルの例会である。地味ではあるが、非常に良くできた映画と評価している。『ミレニアム』はスウェーデンという「福祉国家」の犯罪映画であることに二重の面白さがあった。『100歳・・・』は子ども病気と言う最も苦手で辛い映画だが、元女子プロレスラーと主人公の少年の交流が、心を熱くさせた。
 邦画はあまり評価するべき映画に出会えなかったが、最近見た『こまどり姉妹』を上げておく。これは、こまどり姉妹が語る人生の歩みの合間に、その時代のニュース映像を入れ、彼女たちの歌をオーバーラップさせる簡明なものだが、日本の戦後史を縦断的に切り取った見事な映画だと評価したい。
 彼女たちは極貧の暮らしから、歌の才能に頼って生き抜き、大きく花開く時期も持った。その後、さまざまな不幸の中でも、現在、明るく楽しい舞台を作っている。それは偶然かもしれないが、昭和から平成にかけての日本人の気持ちにあっているように感じた。
 北の荒海を眺める二人の映像と歌によって、私たちの未来は「困難ではあるが切り開かれる」という明るい気持ちにさせてくれた。
 「権威ある」映画賞で『悪人』や『告白』は高く評価されているし、良く出来た映画だと思う。しかし私にはもう一つしっくり来なかった。理由を探せばいろいろがあるが『悪人』では妻夫木聡があまりに知的であったことが、一番の欠点ではないか。彼は演技賞をもらえるほどがんばっていたが、その気質を隠せるほどではなかった。むしろ憎まれる役回りである大学生役を演じるほうが良かったように思う。
 これは『春との旅』にも言えることで、好きな映画なのだが仲代達也が偏屈な漁師に見えなかったから二位にとどめた。『男たちの大和』の漁師役とどこが違うかと言えば、あっちのときは、苦悩の後半生を送りながら、周囲の人からはある種の敬意も持たれる漁師として描かれていたように思う。
 俳優の持っている雰囲気やイメージは見るものに先入観として入っている。これを壊すには、俳優の演技力よりもよほどの演出と人物設定がいると思う。
 『弁護士布施辰治』は、私の知らない本当に色々なことを教えてくれた映画だった。