「アメージング・グレイス」「ダンシング・チャップリン」

4月30日に『アメージング・グレイス』(監督:マイケル・アプテッド)を見る。
 これはよかった。ほとんど知らなかったが、奴隷貿易を違法とする法律を19世紀のイギリス国会で作った男がいた。彼の名はウィリアム・ウィルバフォース、豪商の息子だ。

 その頃、大英帝国の繁栄の元はアフリカ黒人を奴隷として植民地のプランティーションで働かせることだと信じられていた。奴隷貿易の廃止は、いわば国の根本を変えようとしたのだ。
 それを「神は人間を平等に作られた」という宗教心からとはいえ、心身をすり減らし、権謀術策をめぐらし、時に国賊と罵られながらも彼はやり遂げた。「世の中を変える」という信念は、まったくすごいものだ。尊敬に値する。
 タイトルの『アメージング・グレイス』は賛美歌として知られる名曲だが、この作詞者はジョン・ニュートンで元奴隷船の船長で聖職者となった。彼は奴隷の惨状を知り、それによって富を築いたことを悔いて、この歌を作ったという。彼はウィルバーフォースの精神的支援者であった。
 イギリス政治史はまったく知らない。18、19世紀の2大政党ホイッグ党トーリ党はともに貴族、地主、資本家など富裕階級で、王位継承問題で意見が違うグループだったようで、政策がちがうと言うことではないようだ。この時代は小ピット首相時代でウィルバフォースの友人であり二人はトーリー党の下院議員だ。だから映画ではたびたび国会が舞台となるが、それは下院のようだ。そこに爵位を持ったものもいて、議論している。
 しかしイギリス王室に対しては、映画は遠慮会釈なく事実を描くようだ。日本のマスコミが天皇に対して差別的形式的な神格化を行うこととは、まったく違う。王室につながる貴族を本当に卑しい人間に描く。
 というような次第で、この映画が歴史的背景はもうひとつわからないが、結構楽しめた。
http://www.amazing-movie.jp/
5月1日『ダンシング・チャップリン』(監督:周防正行
 これは期待してみたのだが、私の好みに合わなかった。チャップリンの名作をバレエに仕立て直したもので、確かに美しかったが、私には改めてチャップリンの偉大さを認識したようなものだった。周防監督には、やはり現代日本を見つめた映画を作ってほしい。
http://www.dancing-chaplin.jp/