2014年私のベスト映画

映画サークルの機関誌に以下の投稿をしました。
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今年はもう少し見たい
 昨年一年間で見た映画は約50本で例年並みです。しかし邦画が少なく、元町映画館での木下恵介特集を含めても十数本でした。そのためか3本を選び出すのに苦労しました。
洋画は、特色あるいい映画が多くありましたので、5本も選びました。市民映画劇場のラインナップはフィルム上映と言う制約で古い名作映画が多かったのですが、その中から現代に通じる何かを感じた映画を選びました。
 大ヒットした『アナ雪』をはじめ興収が上位に来ているものや、メジャー系はほとんど見ていません。ですから映画雑誌、新聞社のそれとはかなりちがうものになります。
 それぞれに短評を書きました。
市民映画劇場
①『モーターサイクル・ダイアリーズ
 若さあふれる輝かしい映画です。
南米大陸を縦断しようという、いかにも若者らしい冒険を通じて、エルネストとアルバードが生き方を模索していきます。医学生と生化学者というインテリである彼らは、南米に生きる様々な人々と接します。その生活と息遣いを肌で感じ、彼らの中に何か変化が生じました。
これを見るとゲバラの率直で誠実という生来の性格が浮き彫りになります。現実を直視し、その本質的なものに対峙して生き方を探る、変革への賛歌です。
②『ボンベイ
 苦しく苦い映画です。
インドの深刻な宗教対立をドキュメンタリータッチで描きました。しかし暴力的な暴動と、日常的庶民的な異教徒の付き合いは違うとも言います。主役をジャーナリストとし「対立をあおることで利益を得ている政治家がいる」という叫びは監督の怒りです。
20年前の映画ながら、現代のインド政権党がムスリムを排除するヒンズー原理主義的体質を持ち、その指導者が原発輸入を進める姿と被さってきました。
③『チャップリンの独裁者
 勇気を持つことを教えてくれた映画です。
世界征服に進軍し、絶頂を極めようとしていたヒトラーに向かって「嘲笑しなければならない」と断じたチャップリンの鋭い感性と勇気、それは後に、彼をレッドパージで追放した米国の政治的本質も暴きました。その姿勢は生涯揺るぎません。
彼の映画にある愛とロマンは本物です。
邦画
①『WOOD JOB〜神去なあなあ日常
いいなあ、けど大丈夫かと言いたい映画です。
林業の現場、山奥の村の様子をうまくとらえていて、その仕事の重要性も働き甲斐も、人間関係も見ていて心地よい映画です。そしてコメディタッチの映画でありながら、そのすべてが本当は大変である、とも伝わってきます。
国土を守る林業にもっと光をと思いました。
②『小さなおうち』
 小さくはないよな、と思いながら見た映画です。
庶民から見れば小さくはないが、田舎の庄屋屋敷などから見れば、都会の瀟洒な家なのかと見ていました。東北の田舎出の女中の目を通してみた、戦争に突入していく時代の中産階級の家庭、そこの奥様の不倫の話です。こんなことっていつの時代にもある「小さな話」のように思います。
時代と個人の幸せ、という対比を感じました。
③『超高速参勤交代』
 これぞ娯楽時代劇、という映画です。
本木監督をはげます1票です。幕府の権力争いと陰謀、名君と忠臣、人情話に破天荒なチャンバラあり、そして勧善懲悪と娯楽時代劇の要素をすべてぶち込んだ映画で楽しめました。でもそれだけ。
時代劇は、権力に抗するところに面白さがある革新的なものです。それは踏まえてはいるものの、封建社会批判と抱き合わせて、もっと露骨な現世批判があっていいと思います。
洋画
①『NO』
 未来に向かう映画です。
チリのピノチェト軍事独裁政権を打倒すきっかけとなった住民投票、そのための反ピノチェト陣営の宣伝フィルム作りの実話に基づく映画です。深夜15分だけ放映、と言う制約の中で何を作るのか。恐怖の軍事独裁の過去、現在ではなく、独裁政治から解放されたチリのイメージを国民の中に広げる。素晴らしい発想です。
「NO」は現政権反対の意思表示。怒りと恐怖、それらを乗り越え共感するには未来への想像力が必要です。それが変革の旗を高く掲げることです。
②『チョコレートドーナツ』
 悲しい怒りに満ちた映画です。
ゲイの男二人とダウン症の少年が家族として一緒に暮らす幸せを、偏見と差別に凝り固まった連中が、権力を振りかざして蹴散らしていきます。裁判官や検事など権力機構の側にいる人々の人権感覚を問う映画です。これも実話に基づいています。
米国でも同性愛や障碍者の人権を認める法制度に変化しています。人間を個人として尊重する方向です。けれども黒人差別をいまだに持ち続けているのはなぜだろう。
③『罪の手ざわり』
 犯罪は革命的だ、という映画です。
実際の事件を題材にした4話です。中国はさまざまな矛盾を抱えているのでしょうが、それは「社会主義をめざす国」、その過程の矛盾ではないと思います。現実の中国共産党の腐敗は、例えば政府高官の汚職の金額は、日本と比べても桁違いです。
人を殺す、人が死ぬという特異点をテーマにしていますが、その向こうにある普遍的な社会的な荒廃を感じさせます。一党独裁と経済発展の矛盾が深まっています。
④『ジョン・ラーベ〜南京のシンドラー〜』
 忘れてはならない映画です。
 アジア太平洋戦争時の国民党政府首都、南京陥落時に、ナチス党員であるドイツ財界人、ジョン・ラーべが、暴虐の限りを尽くした大日本帝国軍から非戦闘員を守ったと言う史実に基づく映画です。
捕虜の首切り競争も描きますが、日本軍人にも良心的な人もいたとも描きます。困難な状況で発揮される良心は素晴らしい。
ですが、高等教育を受けていても、史実をいまだに認めない日本人はけっこういる、戦後70年です。
 ⑤『ママはレスリング・クィーン』
 ストレスは人生の敵、という映画です。
スーパーのレジ係のお姉さん方がプロレスラーになるという、漫画チックな映画ですが、妙に惹かれました。それは肉体の限界に挑戦する姿です。『人生はマラソンだ!』と共通しますが、自堕落な生活を送っていた人々が、協力共同して肉体を鍛えるという、学生時代の体育会系的な一体感を得ていきます。
イライラするような日常をブッ飛ばす、そこから、これまでと違う人生が開けます。
余談
『永遠のゼロ』
この映画を二〇一四年八月の「銀幕吟味」で全面的に批判しました。その時に財界人と新聞記者(姉の恋人)が相対して議論したと書きました。ロードショーの時にはそれがありました。ところが2番館で見たときには、新聞記者の存在が消され、そのシーンがありませんでした。インターネットで検索しても「映画では新聞記者は存在しない」と言われています。
私は白日夢を見たのでしょうか。