映画界の情勢と映画サークル

2つの文章を書いたので、ちょっと長いですが、ここに載せます。一本は映画サークルの機関誌5月号にに掲載されました。
その1
豊かな言葉で思いを伝えよう
映画界全体が危機的な状況
 日本社会は、すでに人口減少社会に踏み込んでいる。すべての社会的な事象はこのことを前提として考えなければならない。もちろん超高齢化や格差拡大も考えなければならない。
 二〇一〇年の映画館の総興行収入は約二二百億円、ビデオソフトの小売店売り上げ約三千億円、メーカー売り上げ約二千億円となっている。人口が減少すると一人当たりの映画鑑賞回数を上げない限り、この大枠が減少する。
 現在、映画産業は映画製作、配給、興行のすべての領域で危機的な状況となっている。産業構造の再編が必要だろうが、なによりも日本映画は国民共通の文化財という観点から、再生産を保障できるシステムを作るべきだろう。そのためには映画館で一年間一人一回程度(総人口約一億二千万人、映画人口約一億七千万人)という鑑賞回数を、せめて韓国並みに三回に増やすような映画環境の向上を図るべきだ。
 表現の自由を守り、検閲禁止の立場から、事業者等への助成(現行の製作費助成や上映費助成は現行水準を維持する)よりも国民全体を対象とした教育や社会福祉、労働環境などを改善・充実させて、映画鑑賞意欲の向上を図るべきだ。
映画をもっともっと身近なものに
 その中心的な課題は、映像文化の製作と鑑賞、保存等にかかわる教育を整えるということだと思う。
 中でも最も大事なのは観客の育成だ。基礎的な学力として映像リテラシーの向上が必要であり、小・中学生の段階から、国語の教科書に出てくる夏目漱石川端康成と同じように小津安二郎黒澤明山田洋次の映画が授業として取り上げられ、図書館にはシネマライブラリーが常設されるべきだ。あるいはすべての舞台芸術とも共通するが、大勢が一緒に同じ映画を見る、という鑑賞方法も学ぶ必要がある。
 そういう映画界全体を見たときに映画サークルの担うべき役割も、明らかになる。一人でも多くの人に、映画を身近に感じてもらうことだ。
 神戸映画サークル協議会は創立六〇周年を経たが、その活動の原動力は、映画を愛するという情熱である。映画サークルを運営し映画を鑑賞するために、役員だけでなく、会員がそれぞれの立場で役割を担って自主的民主的な活動を行ってきた。これからも一人ひとりが映画の面白さとすばらしさを伝えることである。
 故淀川長治さんは「映画の伝道師」といわれたが、会員の皆さんも古くからの友人や職場の仲間、子どもや孫、隣近所の人々に自分の言葉で映画の話をしていただきたい。
豊かな言葉で 
 映画を映画館で見る習慣が遠ざかっている。それを取り戻すのは市民映画劇場だ。ここの映画は知名度こそ低いものの、必ず心に響く。しかも機関誌など映画を深め、多様な感想を受けとめる活動もある。これらをさらに磨く。
 会員のみなさんには豊かな言葉で、映画サークルを広げていただきたい。
その2
映画サークルの事態
困難な情勢に直面している
 問題は神戸朝日ホールに移ったことではない。これからの世の中で、映画や映画鑑賞運動がどういう役割を果たすのか、みんながどのような価値を認めるのか、それを考えることを多くの皆さんと共有する問題意識としたい。
 今、神戸映画サークル協議会は会員の大幅な減少によって大変な財政危機となっている。おそらく、それは私たちの力不足と社会の矛盾の現れである。だから上記の問題意識を広げることが大事だと思う。早急に現在の状況を好転させる力はない。
 なぜなら、現在の社会的情勢も映画界においても、現状が自動的に改善される要素を見つけることが困難であるからだ。
 さらに三月十一日東日本大震災が発生した。原発事故も誘発した。今、懸命の被災者支援や復旧・復興が行われているが、この未曾有の大規模災害は、おそらく、今後の日本社会に大きな変化をもたらすことになると思う。例えば、必ずや食糧自給やエネルギー政策は大きな変更があると思う。逆に言えばこれまでの延長(TPPの導入や原発推進のエネルギー政策)を続けるとしたら、日本は沈没してしまう。
問題意識の共有
 二〇世紀末から地球規模で大きな変化が生じている。国際的にも市民社会も「歴史の峠」といわれるような変化があり、人間活動による地球環境の変化があり、大規模な自然災害が世界中で頻発している。
 日本ではワーキング・プア(年収200万円未満の労働者)といわれる階層が急増している。人口減少、少子化、超高齢化、無縁社会といった言葉で表現される、これまでにない新たな社会になっている。それに加えての大震災だ。
 私たちの活動はそういう情勢の中にあり、その現状をよく見つめ、正しく認識する必要がある。そうすれば、時間はかかっても、困難は必ず克服できると確信している。
 そのためには、まず問題意識の共有からはじめるべきだと思う。日本の映画界は年間四百本の映画を作り、三二〇本の外国映画を輸入しているが、疲弊している。ほとんど東宝の一人勝ちという産業構造で、一部の映画を除いて製作費や配給経費を回収できていない。地方の映画館はシネコンも含めて深刻な不振だ。鑑賞・批評の分野でも映画を正面から批評するジャーナリズムは少ない。
 一人の天才によってこの事態を変えることができるかもしれない。しかし映画サークルはたくさんの映画が好きな凡人の協力・協働によって、変えることをめざす。
さらに絆を結ぶ
 この事態を乗り越えて進むには、人と人の絆に頼るしかない。映画サークルを続けていくためには会員を増やすしかない。昨年の九〇〇人を超えて1千人を回復させたい。それを実現するために会員の皆さんの協力をお願いしたい。誰に頼ることも出来ない。会員の皆さんの人と人の輪をいかし「一人の友人を新たな会員に勧誘」するとか「例会の参加を1回でも多く増やす」とか、切にお願いします。