市民映画劇場2月例会『あなたの名前が呼べたなら』紹介

標記の映画は来週2月19日20日と県民会館で上映します。私の班が担当しました。映画サークルのHPで日時と映画について紹介しています。

神戸映画サークル協議会(神戸映サ) (kobe-eisa.com)

私は映画の「背景」として以下の文章を機関誌に書きましたが、HPには出ていないのでここに載せます。

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インドの紹介

 『あなたの名前が呼べたなら』は現代的大都市ムンバイを舞台にした、身分の違いを超えたプラトニックな恋愛映画と言ってもいいと思います。私たちがよく耳にするインドの身分制度カーストをはっきりとは描きません。しかしインド社会にある昔からの身分、職業、古い因習等を背景にして、現代の先進諸国にもある、大きな経済格差、都市と農村の違い、男女差別が人権と自由な恋愛を阻害していることを描きました。

ラトナ等の家政婦や召使いとご主人様アシュビンの親族、友人の間には歴然とした差別意識があります。そして寡婦となった女性を縛る古い因習も紹介されます。

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インドの諸元

映画の理解を促すためにインドの基本的なことを紹介します。

政治:インド共和国(二八州と九の連邦直轄領)は中央政府、州政府、地方自治体(都市部、農村部)と言う三層構造で、中央集権制が強い連邦体制をとっています。政治体制は英国に倣って立憲共和国として立法、行政、司法の三権分立、議会制民主主義です。議院内閣制による下院の最大政党から選ばれる総理大臣が実権を握っています。形式的な国家元首として大統領も置き、現在は人民党のコーヴィント大統領、モディ首相で、ともに下層カースト出身です。

国旗:インド独立の原点を表しています。サフラン・白・緑の横三色の中央に「アショーカ・チャクラ」(アショーカ王のチャクラ(輪)という意味)という法輪を配した旗。サフランヒンズー教、緑はイスラム教、白は二宗教の和解とその他の宗教を表す。アショーカ王は紀元前に仏教を保護した王です。

人口:十三.六億人(中国に次ぐ大国)

面積:三二八.七万㎢(日本の約九倍)

公用語ヒンディー語他二一語が公用語で、英語は準公用語です。映画を見ると金持ち階級の人々は英語を喋れるようですが、田舎から出てきたラトナは、十分な教育も受けていないので、わからない言葉がありました。

教育制度:五+三年(義務教育は初等教育六~一四才)二+二年(中等教育)で、それ以上が大学(二~五年)となっています。初等教育ではその地方の言葉、ヒンディー語、英語が必須です。貧しさゆえに学校にいけない子もいて平均識字率七五%です。

宗教:八〇%がヒンズー教イスラム教一三%で、他にキリスト教、仏教、シク教などがあり、根深い宗教対立が残っています。独立後、政権を担ってきた国民会議派の基本方針は政教分離ですが、現在の政権を握る人民党モディ首相はヒンズー教原理主義的です。

二一世紀、新興大国として

 インドは古い歴史と独自の文化を持ち、巨大な人口と面積、多民族、多言語、多宗教で構成されている国です。

紀元前から、高度な文明を持つ国家をつくりましたが、西欧の帝国主義の時代にムガル帝国が滅ぼされ、一八五八年イギリス領インド帝国として植民地化されます。

第二次世界大戦後、英国から独立し、イスラム教を国教とするパキスタンと分離して一九五〇年に、ヒンズー教徒が圧倒的多数の下で政教分離の立憲共和国となりました。

 国民会議派ネルー首相の下で、社会主義的な混合経済をめざす国づくりを進めてきました。東西冷戦構造の時代には、米ソの軍事同盟に加わらない中立非同盟運動の盟主として国際政治の主役でした。一九七四年に核保有国になります。

そして二一世紀に入って、グローバル経済の下で大きく経済成長を続け、近い将来には米国や中国と肩を並べる超大国の一つになると予想されています。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれ、資源と人口が豊富な新興大国の一つになりました。

インド経済の特徴は、グローバル経済とIT産業によって目覚ましい経済成長を続けながら、その一方で、現在も多くの農村人口を抱えていることです。

GDPと(労働人口)の割合は第一次産業一六(四三)%第二次産業三〇(二四)%第三次産業五四(三三)%とアンバランスになっています。

 インドと言えばヒンズー教に基づく身分(ヴァルナ)職業(ジャーティ)を世襲するカーストです。憲法カーストを認めながら、それによる差別を禁じています。低い階層には大学入学や公務員採用の優先枠を設けています。しかし厳然として個人の人権感覚や社会的生活、職業、住居地等を縛っています。

二〇世紀末から成長してきたIT産業はカーストの範疇からはみ出して、能力が認められれば誰でも職を得ることができます。

女性の地位

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インド社会の女性の地位は、伝統的文化や宗教的には低いものです。初等教育の就学率は大きく改善されていますが女性の識字率は低く、就労割合も三割程度(二〇一八)で所得格差もあります。女児出生率も低くなっています。

都市部では女性の社会的地位は上がっていますが、農村ではラトナのような寡婦は婚家に縛られます。かつては夫が死んだときに妻も一緒に焼かれる習慣もありました。

インドもコロナ禍が大きく、DV被害の増加や非正規雇用が多い女性にしわ寄せがきています。

  ムンバイ

 インドの西海岸、インド洋に面する商業港湾都市、都市圏人口はデリーに次ぐ二千百万人。マハーラーシュトラ州の州都。一六世紀ポルトガルに支配されてボンベイと名付けられるが、一九九五年に現地語のムンバイに変わりました。雨季と乾季に分かれる熱帯サバナ気候です。

 金融都市であり、多くの多国籍企業の拠点が置かれています。映画大国インドの中でも映画製作が盛んで旧名をもじってボリウッド映画と言われています。世界で十番目に億万長者が多い都市と言われています。(Q)

参考文献池上彰の世界の見方インド/池上彰』『インドを知る辞典/山下博、岡光信子』インターネット情報