大都市都市計画関係支部連絡会

この前の会議に提出した、私の資料です。
まちづくりの事例研究
Ⅰ.神戸市の取り組み
1.阪神淡路大震災から16年を過ぎて、復興都市計画事業〈区画整理、再開発、街路事業〉はほぼ完成
区画整理事業
公共施行:森南第一・第二・第三地区(17ha)、六甲駅西・北地区(20ha)、松本地区(9ha)、御菅東・西地区(10ha)、新長田駅北地区(60ha)、鷹取第一地区(9ha)、鷹取第二地区(20ha)
組合施行:神前町2丁目北地区(0.5ha) 湊川町1・2丁目地区(1.5ha)
再開発事業
新長田駅南地区(20ha)、六甲道駅南地区(6ha)
街路事業
西須磨地区の中央幹線など、住民の批判を受け、協議によって都市計画道路の幅員構成、道路の性格を変更して事業を行っている。
○経緯と特長
震災復興事業(区画整理、再開発、街路)を進める中で、どんな教訓を得たのか。
 ①急ぎすぎた都市計画決定、②一方的な都市計画決定、③巨大な再開発、大きな都市公園都市計画道路、④土地のただ取り、と批判された。
 神戸市の対応は、①まちづくり協議会による住民・権利者の要求の把握、集約、②専門家の派遣、現地相談所による事業の理解の促進、不安の払拭、③段階的都市計画、「まちづくり協議会によるまちづくり」の強調、④事業着手後は、ごり押しをしない対応、⑤豊富な事業費(土地買収、補償金、共同化の補助の拡大)、全国の注目の下、⑦制度の改善を行ってきた。
別途、住民の発意から⑧密集市街地での組合施行を行った。ここは保留地を取らず、事業費は全額補助金で行った。
 市長は「復旧ではなく復興」と一ランク高い街のイメージを提起した。実際に公共用地比率が、震災復興区画整理地区は40%(森南を除く)を超える。戦災復興地区は30%台であり、都市改造地区は地区特性により20%台から40%台と幅がある。単位面積当たりの事業費も高い。(物価水準の上昇もあるが、道路、公園の整備水準は高くなっている。減歩率が引き下げられ、減価補償金が増えている)
 東西の副都心に再開発を導入し、ビル群の建設を行った。六甲駅南は採算の取れる事業となったが新長田駅南は破綻状態である。(メインの店舗・業務床の空き室、売却価格の切り下げ)
新長田を西の副都心と位置づけているが、全市をあげた取り組みが不足(現在は鉄人プロジェクト、三国志が注目を浴びている)。地域特性に責任を転嫁するのは間違い。事業を始める当初からインナーシティ問題を抱える地区であり、ケミカル産業など中小零細企業の街であった。グローバル経済の進展から地場産業が衰退し、超高齢社会などによる活力の低下等により、神戸市平均を下回る経済的な落ち込みがあった。
○震災復興事業後の動き整備水準
 震災復興以後のまちの整備水準は、めざすべき既成市街地の公共空間の割合は40%以上というものが見えてくる。もちろんそれは住民主体のまちづくりという合意形成を図りながら進めるもので、地権者と行政の負担割合(例えば区画整理事業の減歩等)も明らかにしながら検討しないといけない。
 地域住民と意見交換をしながら、まちの将来図や公共施設の整備を共通の課題となるように進める必要がある。
人口の停滞・減少と財政危機、都市基盤の充足により都市計画事業の減少が著しい。また面的整備は、施行者の責任の重い区画整理や再開発から「密集事業」に軸足を移そうとしている。(強制力をなくし、既存建物の保障をしない。漠然とし、期間を定めない整備計画。公共施設の整備水準の低下)
住民主体
 また、「住民主体のまちづくり」を進めるために、まちづくり協議会等の地域活動が非常に重要であるが、そこに参加する人は高齢者が中心となり、少数で限られている。地域活動に対する社会的認知がまだ低い。女性も含めた幅広い現役世代がまちづくりに参加し、「わが町」について民主的な話し合いをおこなうことは、今後の社会全体の有り様にとって非常に有意義である。
まちづくり協議会に参加できる社会的条件、労働条件等を作り出さなければならない。
震災復興事業に伴ってつくられたまちづくり協議会は、事業が収束すれば「役目を終えた」ことになっている。一部ではソフト面での地域づくりに移行している。
また神戸市が認める「住民主体のまちづくり」ではなく、対等で自立的な活動を支援していく、
密集市街地
密集市街地再生事業など「課題」地域のまちづくりについて、住民組織の合意形成の上に事業を進めようとしている。しかし、これまで面的整備が出来なかった地域であることから考えると①広域的産業的な公共施設がない、②地形的に地域改善費用が高い、③地域の経済力やまとまりが弱い、などがあり、本来的には相当程度の財政投資を必要とする。
また新たなまちづくりの指標となっている「安全安心」「ユニバーサルデザイン」「景観」等に配慮することも必要になっている。
以上のことから、これまでの都市計画運用方針や技術基準を満たすことは非常に困難であり、むしろ住民の望むまちづくり、住まいづくりに応える柔軟な制度をつくり、現状よりも改善することを整備、改善の指標とする必要がある。
密集市街地の改善で重要な要素である住民のまちづくり活動については、これまでの諸制度に対する説明が不充分なこともあって、まちづくり役員や地権者、住民の協力が得られていない。また現在の制度では、住民が望むまちづくり、住まいづくりに応えることができない。
密集事業の肝は、住み続けられることと安全安心の水準を引き上げることにある。
住民側も行政も、特定の事業や施設整備について、意見交換は出来るが、地域にとってどんな事業が出来るのか、というところから話し合うのは、むずかしい。あるいはまちづくり協議会と行政の話し合いを、自治会や住民一人ひとりの合意にまで持っていく方法など、今後、研究していくべき課題は多い。
そういった議論をしながら、制度づくりとあわせて、地域の改善の事業を進めていく。
2.今後の都市計画事業の方針
・ 都市計画マスタープラン
・ 土地利用誘導方針
都市計画道路整備方針
   都市計画道路の廃止(道路を分類して主要幹線道路は整備、生活幹線道路はいったん廃止)
・ 密集市街地再生方針
   課題を抱える地域を優先的に整備する。これまでの面的整備ではない「柔軟な」手法を検討する。
3.当面の重点的な都市計画事業
三宮駅周辺整備事業
鈴蘭台駅前再開発事業
・ 密集市街地再生事業(4地区)


Ⅱ.東日本大震災後、私たちが検討するべき、まちづくりの課題

 国全体の基本的な政策(エネルギー、食料、税財政など)を見直すことが必然的に行われる情勢となっている。大規模災害や原発事故に対して、表面的な現状批判で終わらすのではなく、国民の意識、生活文化を見直すまでに、国民的な議論が求められている。
 まちづくりについても、人口減少社会も踏まえた、諸法制度の見直しが早急に求められている。
1.災害に強い、安全安心のまちづくり
ソフト、ハードの両面について検討する。地域の絆の再生
個別の建物の補強・強化、地域公共施設の整備
防災に配慮した土地利用計画(開発自由の原則から、想定される自然災害に対応した開発規制、誘導の制度、危険地域の公表)
2.生物多様性、低炭素・低エネルギー、環境、景観、ユニバーサルデザインに配慮したまちづくり
これまでの産業、経済活動を中心としたまちづくりではなく、市民生活の充実に重点を置いたまちづくりに転換していく。都市部に生物多様性空間を導入することで、災害や異常気象を緩和する施設帯を作っていく。
3.人口減少、縮退に対応した都市計画の諸制度づくり(都市計画法等の見直し)
都市計画法をはじめとする都市整備、都市開発にかかわる法制度は、高度経済成長下における都市の膨張に対応するものとして、整えられていった。人口減少が顕著になる中で、都市開発の基本的な理念の見直しといった根本的な問題から、既得権の補償制度等まで、全面的な見直しが必要になっている。
4.住民主体のまちづくりの推進
その地域で生活する、幅広い世代やさまざまな職種からの参加によって、まちづくり活動が行われるような環境づくりが必要。地域住民、事業者と行政の対話や住民団体が地域全体をカバーできるような活動など、課題は多い。長期的にはまちづくり活動の社会的位置づけを向上させるために、行政からの適切な支援が必要。
5.公契約、ディーセント・ワーク、技術の継承の実現
魅力的なまちづくりには、そこでの生活水準の向上や労働条件の向上が不可欠である。自治体レベルの公契約条例を早急に進め、公共事業を直接請け負う企業だけでなく、間接的にかかわる企業レベルでも、より高い労働条件の確保を義務付けていく。
民間も含めたまちづくり、ものづくりの技術の研鑽や継承する制度づくり
6.国庫補助制度の見直し
住民活動への支援、専門家の派遣費用や初期段階の調査費などを充実させる。