9月の映画

「ストリート・オーケストラ」「めぐりあう日」「ルーム」「追憶の森」「後妻業の女」「イロイロ ぬくもりの記憶」「シリア・モナムール」「イレブン・ミニッツ」「超高速、参勤交代リターンズ」「怒り」「オーバーフェンス」「サウスポー」「ボーダーライン」「ある天文学者の恋文」「レッド・タートル ある島の物語」「歌声にのった少年」
 9月は頑張りましたね。16本見ました。初めての年間鑑賞数3桁が見えてきました。
しかし今月は数を見た割には、これはと言うのが少なかったです。
シンガポールが身近に
 例会『イロイロ』はカンヌ映画祭カメラドール=新人賞、さすがに水準以上の作品です。シンガポールの普通の家庭が舞台で地味な映画でしたが、父母、小学生の子供そしてそこにやってきたフィリピン人の家政婦、それぞれの気持ちがよく伝わってきました。

 見ている私と、文化も生活スタイルも年齢も違うのに「そうだよな」と納得できるのです。それは事前の学習会でシンガポールやフィリピンの特徴も学んでいたためかもしれません。
 母の会社では労働者を簡単に首にするシーンが出てきますし、父が会社を首になったことを家族に隠しています。シンガポールは労働者を簡単に首にできる法制度を知っていましたから、その理不尽さに怒りはあっても「よくあることなんだ」と、彼らがそれを受け入れてしまうのに、同情するしかありません。
フィリピン人家政婦のテレサが故郷のイロイロに子どもを置いて出稼ぎにくるのも、フィリピンでは「普通」のことなのです。貧しい人たちは海外に働きに出ます。
考えてみれば悲しいことなのに、当然のように、私は見てしまうのです。
腕白な小学4年生の息子にも人生の悲哀があります。わずか1年の中でさりげない変化が描かれます。だから「うまいなあ」と感心します。
「豊かな国の貧しさ」と「貧しい国の豊かさ」を感じました。
邦画は力足らず
 『後妻業の女』はもう少し面白いか、と思いましたが大竹しのぶ、トヨエツの怪演だけ、と言ってもいい映画でした。年寄り男と結婚して財産を乗っ取る女、それと結託する結婚紹介業者(豊川悦司)ですが、夫殺しという犯罪に踏み込むのは面白くない。そこまでして金を儲ける動機が不明です。
 明確な犯罪ではない、ちょっと小金をくすねるところに、この「商売」の面白みがあると言う映画が、この手の喜劇にはよいと思います。

 でも私が見たのは平日の昼間でしたが一杯でした。私よりも高年齢の人が多く、しかも女性が目立ちました。こんなのが見たいんだね。
 『怒り』は何の「怒りだ」と思いました。行きずり殺人のような残酷な殺しがあり、その家の壁に「怒り」の血文字がある出だしです。それから1年後に3ヶ所に身元不明の怪しげな男が3人現れて、それぞれ「この殺人犯では」という疑いが作られていきます。

 しかし犯人以外2人が身元を隠す理由が弱すぎます。一人は親の借金を背負って暴力団から逃げている、と言う設定ですが、どれほどの借金か分かりませんが、財産放棄なり自己破産と言う手段が使えないのかな、と思います。もう一人はゲイですが、施設出身と言うだけです。それを心から好きになった人に隠す理由って何だろう、と思いました
 そして犯人が抱える「怒り」は何か、彼の心にはどんな闇があるのか、わかりません。使い捨ての日雇い派遣社員で、モノのように扱われた怒りは、分からないこともありませんが『イロイロ』と比べたら、なんだそれ、と思います。
 さらに沖縄の基地問題も少し描きますが、これはどうなんだろう、と思います。
 また愛する人を疑うことの哀しさにしてもまったく深みがありません。ゲイの恋人同士である優馬妻夫木聡)と直人(綾野剛)の間に優馬の母親をおきますが、彼等には葛藤がないのです。
 李相日監督は力のある映像を作るので引き込まれる面もありますが、昔見た『復讐するは我にあり』と比べると、あらゆる面で「怒り」とはいえないでしょう。
中近東の現実
 『シリア・モナムール』は現在のシリアを撮ったドキュメンタリーです。たくさんの人間が殺されていますが、その映像は抑えられています。抗議のデモや激しい銃撃戦も破壊された住居、ビル群も見るのが苦痛です。でもそこにいる犬や猫たちの映像、ひょろひょろにやせた犬、怪我をした猫などが、もっともっと残酷な現実を想像させます。

『歌声に乗った少年』はパレスチナ出身の歌手の実話に基づく映画です。ガザから脱出した少年がアラブ社会のテレビのコンテストで優勝します。彼はパレスチナの希望です。現実の破壊されたガザが出てきます。北朝鮮は愚かな国ですが、イスラエルは残酷な国です。

日本は戦争の準備を整えようとしていますが、実際に現在進行している戦争の映像をもっともっと写すべきでしょう。アメリカ映画の派手な銃撃戦では感じられない恐怖を感じるような映像を見るべきでしょう。