2024年1月に読んだ本その3

乃南アサ短編傑作集 最後の花束/乃南アサ』と『世界1月号』『前衛1月号』を書きます。

乃南アサ短編傑作集 最後の花束/乃南アサ

『くらわんか』『祝辞』『留守番電話』『青空』『はなの便り』『薬缶』『髪』『おし津提灯』『枕香』『ハイビスカスの森』『最後の花束』12編の短編(約6010頁)ですが、「傑作集」と付けだけのことはあると、思いました。しかも解説で「若い女性の狂気編」というように、読んでいて嫌になるような女性が出てきました。全て女心の「本心はこんなところにある」と言っているか、ただ上手なエンターテイメントなのか、そこはわからない感じです。

 簡単に一言書きます。

『くらわんか』

 お互いに「割り切った関係」と言い合う男女の仲ですが、安心はできないということです。女は複雑です。

『祝辞』

 これは女友達の話ですが、男であっても「親友」というあまりにも近しい関係は、どこかに歪みを持つものかもしれません。

『留守番電話』

 これは都市伝説の一種かもしれません。前の住民の電話線が生きているケースはどんな場合か、考えました。

『青空』

 小さな子供が何を考えているのか、本当のところはわかりません。

『はなの便り』

 突然、何の理由もなく「しばらく逢わない」といって姿を消した恋人を、男はどこまで追いかけるか。でも気持ちのいい作品です。

『薬缶』

 夫を殺したいとは思わないが、いなくなればいいという思いは、妻が心底に持っているものなのか。

『髪』

 友達関係

『おし津提灯』

 夫が幼馴染のあこがれていた「お姉さん」が20年も経って帰ってきた。妻の気持ちはどうなのか。

『枕香』

 枕にしみ込んだ匂いです。それがキーでした。

『ハイビスカスの森』

 恋人が秘めているトラウマはわかりません。新婚旅行まで行った女の気持ちです。

『最後の花束』

LGBTQの話です。

『解説』

 一つ一つに謎に触れず、物語の流れを書いています。7頁を稼いでいるが上手です。

『世界1月号』

 特集は『二つの戦争、一つの世界』7編、『ディストピア・ジャパン』4編。それに加えて新連載『最後は教育なのか/武田砂鉄』もありました。

 とても充実していて紹介したい論文が多くありました。しかし時間も限られているので2本を紹介します。

 イスラエルのガザのジェノサイドが始まって1年で、死者は4万人を超えています。この雑誌の発刊時は3月ほどですが、中満泉(国連事務次長)は「人道危機というより人類の危機」「人類社会が積み重ねてきた『越えてはならない一線』に対する規範が無視」と言っています。それでもG7など米国など西欧先進諸国はイスラエルを、いまだに支持、支援しています。

『この人倫の奈落において ガザのジェノサイド/岡真理』

 やはり岡真理先生の物が一番分かりいいので、これを紹介します。

 ガザのジェノサイドは世界が注視している中で行われていること、米国やドイツなど西欧諸国は積極的にイスラエルを支援支持していること、ロシアや中国がイスラエルと同じことをすれば、「国際社会」はどんな反応をするか等を指摘しています。

 パレスチナ人の「テロ」の原因は、イスラエル75年にわたる民族浄化の暴力と占領(南アフリカイスラエルアパルトヘイト南アフリカより過酷と証言)と断言します。

 そして日本を含めて西側諸国のマスメディアの多くが、日常的にガザやヨルダン川西岸地区の実態を報道していたら、この状態を回避できたかもしれないと思いました。

パレスチナで起きていることは植民地戦争」これを認識するべきです。

『最後は教育なのか?(第1回)「お花畑」は現実化する―仁平典宏さんに聞く/武田砂鉄』

 「教育」について、色々な人に聞く企画のようです。武田砂鉄さんは鋭いコラムを書いていますから、楽しみにして読み始めました。仁平さんは社会学者です。

 「教育が人の意識を変えられるか」に対して仁平さんは「人がある価値体系を支持するとき、その人の意思が介在しているということです。「他者に優越したい」「承認されたい」という個人的な欲望にこたえる仕組みがあってはじめて、その世界観は支持される」といいます。

 教育だけで人を変えることは難しいようです。その人が持つ欲求とかみ合うときに、その威力を見せるということでしょう。

 2000年代の教育の反動化について、80年代の「臨教審」では民営化を進めたい人と市場原理を持ち込むと公教育は壊れる人がいて、落としどころが「個性の尊重」になったいい、その後の新自由主義的教育改革の隠れ蓑になり、個々の子どものニーズにこたえるリベラルな教育の足場にもなったそうです。

 そして「リベラルが一人負けしたわけではない」ともいいます。「深層では社会全体の意識のリベラル化が進んだ部分が大きい」という意見です。

 私もそう思います。

 しかし現状は「多忙化と評価で先生同士のコミュニケーションも十分でない」と認識です。多忙が敵です。

 面白い対談でした。

『前衛1月号』

 特集『上からのデジタル化は何をもたらすか』2編です。

 それではなく、友人がこの号に論文を書いていますのでそれを紹介します。

『「カルテル問題」「ビッグモーター事件」「代理店への優越的地位の乱用」―揺らぐ損害保険産業と再生への展望/松浦章』

 松浦さんの文章はとても読みやすいし、ここで取り上げている問題については、以前から解説いただいているので、よく理解できました。

 損保業界を大きく揺らしている3つの問題について、一つ一つの根本的な理由、そして経営陣がどう対処しようとしているのかを解明しながら、中心的な要因である「利益至上主義」を反省しないことを厳しく指摘します。

 そして損保業界の社会的役割「資本主義経済におけるブレーキ役」という品川正治さんの言葉を引用し、そこに立ち返るべきと明確に主張します。

 日本の損保業界の異常さについて知りました。

 3メガ損保(三井住友海上、あいおいニッセイ同和)(東京海上日動日新火災)(損保ジャパン)が90%のシェアを占めていること、英米ではありえなく、米国の損保会社は2496社だといいます。

 ビッグモーター問題では、専門的な車両の損害調査員アジャスターの冷遇、切り捨てです。企業の信頼の柱だと思うのですが、それが「無駄」と考えているのです。

 そして契約者の窓口になっている零細の代理店の切り捨てである「手数料ポイント制」です。代理店は199762万店舗から202315万店舗と14になっているのです。

 これらを見ると、まさに新自由主義を推し進める損保業界です。最終的には利用者、国民につけが来るので、法規制が必要となります。