「国際貢献のうそ」(ちくまプリマー新書、伊勢粼賢治)

 伊勢粼賢治さんは贔屓にしています。国際紛争の現場に立っていてなおかつ九条を守る立場というのは、非常にすばらしいと思います。大体において現場がきついと、そこばかりをみて違う方法で問題を解決することを思いつかない傾向にあるようです。現場の感覚とか、実感することは非常に大切ですが、そこからさらに一段と高い見地に立つことが問題解決に近づく道であることがある、と私は思います。
 力勝負のところは力をより強くしようとしか思わないもので、軍事力で解決しないのは軍事力が足りないと思うようです。伊勢粼さんはそこから簡単に転換できる思考の持ち主です。憲法九条の活用は実務家の発想です。
 軍事力では解決できない事態が、今後の国際状況の中で増えてきそうです。今、問題になっている尖閣列島のことも、中国に対して武力行使はできません。外交力が問われるのですが、日本はまったくだめでした。日米安保にすがるだけば、アメリカにけん制をするだけで日本は「赤子の手をひねるもの」と世界に暴露されたみたいなものです。
 やはり、伊勢粼さんもいうように九条を前面に立てた外交こそが日本の地位を引き上げ、世界に権威を示せるというものです。
 この本は、NGOの正体、というか国際的な現場は紹介されています。そこで平和を築くとか貧困をなくしていくとは、どうすればいいかということが考察されています。
 「魚を与えるより、魚の捕り方を教える」ということほど、傲慢なことはないことに気付かされました。そうです、現地の住民は、本来現地で生きるすべは身についているのです。それができないのですから緊急的には命を助けるものを持っていくべきです。少し余裕ができれば彼らは彼らのやり方で生きる術を発揮していきます。
 内政干渉の考え方も、平和憲法に沿ったODAのために調査をし注文をつける必要性はきわめて妥当な考え方です。