『コスタリカの奇跡』感想

8月例会の『コスタリカの奇跡〜積極的平和国家のつくり方〜』の感想を映画サークルの機関誌に書きました。ここにも載せておきます。
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映画を見るだけではわからない

映画のコスタリカ
 軍隊を持たない国コスタリカを紹介したドキュメンタリーでした。国家が軍隊を持つことが「常識」である現代の国際社会において、それは「奇跡」だと考えて、配給会社は日本の題名としたのでしょう。また安倍首相が言う「積極的平和主義」を意識した副題だと思います。
映画は多くの人のインタビューを矢継ぎ早に出していきますから、映像を「見る」よりも「聞いている」感じで、ちょっと気忙しくなります。
映画は一九四〇年前後から現代にいたるコスタリカの歴史を紹介する面と、軍事費を教育、医療にまわした効果や、民主的な選挙によって国づくりが進められている面が紹介されます。そして現代、新自由主義政策で貧富の差が拡大している問題も指摘しました。
しかし、この映画は米国人の監督が米国人向けに、莫大な軍事費を費やす愚かさを説いたもの、と感じました。だから限界もあります。
奇跡のコスタリカ
四千人が死んだ内戦を経て「建国の父」といわれるフィゲーレスの決断で軍隊をなくします。その後の東西冷戦時代、中米諸国で内乱があった時期も、軍隊を持たずに切り抜けています。隣国ニカラグアとの国境紛争も国際裁判所を使って解決しました。
アリアス大統領は積極的平和主義を発揮して、内戦の絶えない周辺諸国を話し合いのテーブルにつかせて和平条約を結ばせます。
コスタリカは米国との関係が深い同盟国です。周辺国が手を出しにくい状況を利用しながらも高い外交力で国際社会に働きかけたことがよくわかります。
欧州諸国の支援を受けるような外交を展開し、米国の世界戦略に組み込まれる圧力を巧みに避けています。いったん賛成したイラク戦争も、法学生の訴えを受けた裁判所の違憲判決によって反対に回っています。
軍隊を持たないことで軍事費を民生費にまわし、軍事クーデターも軍事独裁もない、また日本のように米国の圧力で高い兵器を強制的に買わされることもない、良いこと尽くめに見えます。
でも「なぜそうできた」という疑問に、映画はあまり応えません。
学習会のコスタリカ
国名である「豊かな海岸」とは裏腹にコスタリカには地下資源は乏しく、山がちで大規模農園も少なく、豊かな国ではありません。
中小農園主を中心に一九四〇年代から社会民主主義的政治をとり、一方で米国主導の軍事同盟の一員で反共政策を掲げてきました。フィゲーレスの時代に共産党を非合法化し、長くキューバや中国と外交関係を持っていません。それを評価する米国から莫大な経済支援を受けてきました。
民主主義は発達していましたが、政権を担ってきた主要二大政党は、教育の無償制度などは守っても、米国の新自由経済を受け入れ貧困層を拡大してきました。
その矛盾の中でも、コスタリカはいち早く核兵器禁止条約に批准しています。
例会学習会で小澤卓也さんが指摘されたように、原題である「a Bold Peace」の「勇敢な平和」のとおり、コスタリカ国民の英知と勇気が軍備を否定したことを映画はよく表しています。