神戸新聞12月23日「清陰星雨」中井久夫

 これを読んで、あわてて古い新聞を漁った。この前は9月30日であった。中井先生のエッセイは年に4回ほどのようだ。今までは掲載されているのは知っていたが、ほとんど読んでいない。これからは真剣に読もうと思った。
 中井先生は最近の出来事を長い時間尺で見ながら淡々と書かれている。それがあまりにも的確な指摘であるので感嘆した。
 まず「米中2国の共通点を挙げてみよう。まず、2国民ともお金持ちになることをめざす。これを人生最大目的とする点は2国を強大にした点であるが、周囲から必ずしも深さを感じさせないところでもある」といわれてしまえば『千年の祈り』はどう見るべきか。新しい視点を提供してくれた。
 中国については「われわれの中国観はアヘン戦争以降の混乱期を元に形成されているが、それは誤りである」と「中国4000年」といわれる全体像を切り離す、最近の傾向を軽く指摘する。そして中国近代史の始まりは「5・4運動」1919年5月4日の学生、知識人による反日デモであり、これは朝鮮の「3・1独立運動」とあわせて、欧米諸国が日本の侵略を知り「日本は次第に世界を敵に回すようになる」という。
 「この辺りに、中国政府が反日学生デモのコントロールに苦心する歴史的理由もある」「天安門事件の惨劇は、日本から「一人も殺さない」という機動隊の方法を伝授されたにもかかわらず、内乱に対する過敏症の故かもしれない」と、現代中国の変化を促す重要な要因に触れる。
 最後に「石油や食料など生命に関わる物資の日本への輸入は、平和を前提としている。いたずらに強がることなく、日本の脆弱性を直視しつつ外交力を発揮しなければならない」と、日本政府の外交の中心課題を指摘している。
 9月30日は参議院選挙の直後である。マスコミや政治学者の一部が進めてきた「2大政党制にしなきゃ民主主義は実現しない」を批判する。その結果が、与党の大勝と、逆に参議院の大敗による少数党のふりまわしである。国民の民意が反映した民主主義にほど遠い。
 現代の政治状況を戦前の2大政党時代とそれにつづく大政翼賛会を引き合いに出す。今、まさにそうなりそうな状況である。政策的には菅民主党はすでに財界に屈服している。法人税減税と決め、消費税増税に向けて、連立する相手を探している。基本的な経済政策である「新成長戦略」は新自由主義政策そのものである。
 9条という言葉は出さないが「軍が法制上なくなった。韓国軍はベトナム戦争で米軍と方を並べて闘ったが、日本は出兵せずに済んだ」あるいは25条との関係では「貧困は戦争の温床である」「食えないよりは軍隊に入るほうがまし」「電子化した戦闘をゲーム感覚で行える」と、現代の危機感を言う。そして「アジテーション(扇動)に載ってどーっと一方に動く傾向である。これは、日本人が変わったのだろうか。むしろ、貧困が、将来の不安が、群集に雪崩を打たせたのではなかろうか」と分析する。
 この現実感を踏まえた対応が必要だと思う。それは難しいが、やはり人間関係の回復しかないように思う。