「ジブリの森へ 高畑勲・、宮崎駿を読む」米村みゆき編 森話社、「超マクロ展望 世界経済の真実」水野和夫・萱野稔人 集英社新書、「死亡推定時刻」朔立木 光文社

 ちょっと前のものも含めて面白かった本を紹介しておきます。分野はばらばらですね。でもそれぞれに面白い。
ジブリの森へ 高畑勲・、宮崎駿を読む」 
 これはジブリ作品を、大学や高専で文学を教えている教員が「自分たちが教壇に立ち、講義したい内容を」盛り込んだものだ。七人の先生が『平成狸合戦ぽんぽこ』『千と千尋の神隠し』『紅の豚』『火垂るの墓』『もののけ姫』『風の谷のナウシカ』を中心に分析している。
 アニメ−ションの読み方を伝えることは、今後ますます重要であるから、私はこの本のように授業が実施されるとことを強く望む。そして内容もなかなか良い。生半可な映画評論家やアニメ評論家より深みがある。
 「高畑勲宮崎駿は、共同制作で知られる二人であるが、その作品の手法には大きな差異が認められる」とはっきり指摘している。
 高畑勲を「アニメーション界において”非ファンタジー”にこだわり続ける改革者である」と正しく評価し、その考え方もきちんと紹介している。
 しかし「太陽の王子ホルスの大冒険」が東映動画史上最低の興行成績とは知らなかった。でも封切りではそうかもしれないが、その後、多くのファンを獲得していると思う。私も封切りから10年以上後で見た。
 宮崎は高畑と付き合っていくうちに「欲求不満が高じ、発散する作品を作ることになった。…岩をけって空中にジャンプし、飛行機の主翼に飛び乗る少年。風圧で安定を失い、飛ばされそうになったとき、足の親指とひとさし指で翼をつかむ少年」を描いた。
 二人の関係を「『平成狸合戦ぽんぽこ』は、『隣のトトロ』に向けた批判となって表れている」と、これもまた明確だ。
「超マクロ展望 世界経済の真実」

「死亡推定時刻」
 面白いミステリーであるが、冤罪を生み出す法曹界の実情を告発する小説だと言ってもいい。
 簡単にあらすじを言うと、地方の有力者の娘が誘拐されて、現金の引渡しに失敗して、殺された姿で発見される。そして一人のチンピラが逮捕されて、満足な弁護も受けられず、死刑判決を受ける。
 そこまでが第1部
 2部では、控訴審に国選弁護士が付き、彼の努力で、冤罪であることが明らかにされていく。そして事件の真相、真犯人像までもが明らかにされる。
 著者の朔立木(さく・たつき)さんは法曹界の人で、その実情を知り尽くしているといってもいいのだろう。この小説でも、警察の取調べに警察官、幹部の気持ちがどういう風に影響するか、がリアルに描かれる。被疑者の弱点の突き方も、そうするだろうなと、言うような展開で、起訴まで進む。そして弁護士と検察官、裁判官についても、その心理の内部まではそんなに踏み込まないが、誘拐殺人、死刑判決という非常に重い犯罪にもかかわらず、被疑者の抵抗がないと、こんなに軽く扱われるのか、という恐ろしいやりとりにリアルさがある。
 2部は国選弁護士という経費すらももらえない中でも、がんばる弁護士が主人公だ。小説だから、そういう人間像に作っているのかもしれないが、弁護士はこうでなくては、と思う。
 彼が走れ回って、死刑判決の証拠となった自供や物証のいい加減さが露にされる。「これは冤罪」とはっきり確信して、裁判をひっくり返すために、彼はがんばるが、検察官、判事、そして証拠に関する証言を行う警官、法医学者の「裏切り」によって、無期懲役にするのがやっとだった。
 先の厚労省局長の冤罪事件でも検察の犯罪が明らかにされているが、このブログでも書いたが、恒常的に検察、警察の犯罪は明らかにされている。
 マスコミは意図的にそれを報道せず、追い込まれて初めて、本質とは違う点に力点を置く報道を繰り返し、国民の関心をそらし問題の回避を図っている。御用マスゴミは多い。
 彼ら(法と「秩序を守る」彼ら)は「疑わしきは被疑者の利益」とは裏腹に「証拠の捏造」とまでは行かなくても、被疑者に有利な証拠はもみ消される。私は、そう確信している。映画『それでもボクはやっていない』(周防正行)を見てもそれは深まっている。
 警察にいたっては人権無視の捜査や証拠の偽造、捏造を繰り返しているといっても良いだろう。これまでも政権与党や「支配者」側の意向を無意識にでも受けた捜査が繰り返されている。政治的な問題にまで踏み込むほどそれはひどくなる傾向だと思う。
 まあそこまでは行かなくても、この小説も十分に法曹界の恐ろしさを描いている。映画『悪人』はいい素材であると思うが、いつのまにか、犯人やその周辺の人々、そこで起きる事象にのみ焦点を当てて、その背後にある社会性が抜かれているように思う。
 いやまあ、この小説とは関係ないが、読みながら、色々と連想させてくれる、それほどいい小説であったということ。