「柔かな頬」桐野夏生、「巡査の休日」佐々木譲

映画関係の本で一杯
 今日23日、映画サークルの大先輩Mさんのお宅に伺って、本を預かってきました。映画関係の本、3〜400冊はあるでしょう。これだけで一つの文庫が出来ます。すごい数ですし、ざっと見ただけでもいい本だとわかります。一流の映画評論家と言われる人から、新書、文庫本の映画関係の本まであります。本来なら映画サークルの事務所に置くべきでしょうが、そこは、すでに関係書類で一杯で納まりませんので、私が預かることにしました。
 しかし私の家にも納まりません。とりあえず、廊下などにそのままつんでおきました。どうしよう。
桐野と佐々木
 図書館で借りた本で、今週には返さないといけないので、お気に入りを紹介しておきます。
 「柔らかな頬」これは、なんていったら良いのか。「本格推理」ものから言えば、掟破りですね。これが正解という謎解きがないのですから。でも面白いからいいか。
 謎は、北海道の別荘地で起きた幼女行方不明事件です。山奥の行き止まりで誰も来ないはずのところで、早朝、親がちょっと目を離した隙に、5歳の女の子が行方不明になりました。現場にいた人間にはアリバイがあり、警察犬を使って山狩りをしても、遺体も出てこないし、新しい容疑者もない、という不思議な事件です。
 しかも、中心的な人物は二組の夫婦で不倫の関係、それに絡まる人々も、それぞれに事情を抱えているという、伏線は一杯です。
 この人の小説が面白いのは、事件の設定や流れも新しいですが、人物設定です。不倫をしている男女の生き方考え方、そして後半から絡んでくる、胃がんで死が宣告された元刑事の特異な警察観、それらを丹念に描きます。当然、それは何か事件の手がかりだろうと思うのですが、それがそうでもないのです。
 彼らは事件の真相を夢想するのです。女は、夫が不倫を知っていて、彼女が棄ててきた北海道の親と通じ合って、女への復讐から子どもをさらった。だから北海道の親の元に子どもはいるのではないか、と思います。
 あるいは元刑事は、現場を仕切っていた駐在所巡査が事件を起こして解決することで、辺鄙な駐在から抜け出したいがために、出世欲に駆られてやったことだとか。
 あるいは自殺した別荘地のオーナーだとかが。どれも真実ではないのですが、そうかもしれないという「解決編」が用意されています。
 これはやはりミステリーですが、ちょっと毛色がかわっています。
 「巡査の休日」こちらの方は、佐々木譲さんのいい味の警察小説です。やはり北海道が舞台で女刑事を主役にすえています。
 警察病院から闘争した容疑者が、逆恨みの復讐に帰って来る、それも札幌の「よさこいソーラン祭り」に出る女性を狙う。そして警察は彼女を警護する、という話です。
 しかも山場は1週間の間の事件ですが、本筋以外も幅広く事件の展開があります。
 緊迫感あふれる描写が良いですね。見えない犯人の接近に振り回される警察、威信にかけても守りきらないといけない、現場の人間と上司の葛藤。そして以外にも犯人は二人いたという種明かし。さりげない警察官の生き方。
 佐々木譲は、私の好みに合うから、すべていいように受け入れることが出来ます。相性は不思議です。