「灼熱の魂」

 『ワイルド7』も見た。あまりにも貧相なので言わない。しかし望月三起也の漫画は面白かったと思ったのだが、この程度だったか。
 さて『灼熱の魂』であるが「すごい映画」という評価を聞いていたので、無理をしてでも見ようとした。それで、どうだっかと聞かれたら、期待はずれでもあり、期待以上でもありといいたい。
荒筋
 詳しい内容は、それを紹介するブログなりがたくさんあるから、それを読んでもらいたい。ここでは私の感想を理解してもらう範囲で簡単な荒筋を言っておく。


 アラブ系カナダ人女性がプールサイドで倒れ、子ども達に奇妙な遺言を残す。彼らの父と兄を捜せという。そして彼らは母の母国へ、そこで母が体験した悲惨な中東の悲劇を知る。そして最後に、なぜ彼女が奇妙な遺言を残したかが明らかになる。
 それは復讐であり、赦しであり、告発であるという、きわめて複雑な心境から出たものだ。彼女は、それまで明らかにしようとしなかった、その人生を双子の子ども達に、伝えようという意思によって遺言を残す。
 故郷の村で、彼女は結婚せずに異郷の難民の子供を身ごもり、出産する。イスラムの戒律に反し家族の名誉を汚したことで、こどもは取り上げられ、彼女も村を追放され大都市へ出て行く。そして内戦に巻き込まれ、イスラム教とキリスト教徒の惨たらしい殺し合いを見る。彼女は刺客となってキリスト教右派の要人を暗殺し捕まる。そこで殺されることなく、非人道的な監獄で、拷問とレイプの日々を送る。拷問の達人の子供を身ごもり、そして双子を出産する。釈放されると二人を連れてカナダに来た。

 かなりご都合的な過酷さだ。彼女はいつ殺されてもいい人生だ。それを感のよさと強い意志で切り抜けてきた。





イスラム
 必然的に映画自体も、レバノンを思わせる中東の1970年代から90年代にかけての様々な実態を見せる。それは彼女のきわめて特殊な体験ということではない。その国、地域の歴史が普遍的に抱える問題を告発するということだ。
 イスラム教の前近代性、イスラム教とキリスト教の殺し合い、命も人権も無視する社会。だから、彼の地では戦禍が絶えない。というように思ってしまう。そうなのか。


 もしそうなら、イスラム教が生まれたときから殺し合いは続いていたはずだ。歴史はそうではないことを教えている。
 ヨーロッパ列強が来てから、イスラエルが作られてから、そうなったと思う。しかし、この映画はそんな中東の歴史を描いたものではないから、感動的なのだろう。
うますぎる、面白すぎる 
 何が期待はずれなのか。それはあまりに過酷にしすぎているから、特殊な体験を普遍的に思うように作っているから。何が期待以上なのか。その手法がハードボイルミステリーのように、連鎖的に謎が謎を呼び、一つの結果へと収斂していく、スリリングさを味わえたから。