神戸演劇鑑賞会6月例会、文化座公演です。
その時代の「現実を捉えきる空想力」があれば、時を越えて普遍的な芸術は作り出すことが出来ると、今村太平は言っています。
前月例会の「わが町」はどうも違うとしか思えなかったのですが、今月は明治維新後の市井の人々の生活、背負った人生を感じます。
出てくる人々が複雑、わけありです。ざーと紹介すると、没落旗本の嫁で芸者になり、そこから落籍されて妾に納まっている「あや乃」、彼女の芸者時代から世話をしてきた女中の「おセキ」、おセキの息子夫婦「熊吉」「お福」。あや乃の嫁いだ義父に世話になったという車引き「銀次」、その妻で混血の「ロビン」、あや乃の旦那、明治政府高官、元薩摩郷士の「別所鐡太郎」、そしてその正妻「佳代」。さらにあや乃の義姉で旗本の娘「お勝」。さらに小樽のチンピラヤクザたち。
配役を書くだけで、面白い話の展開になりそうです。
芝居は2幕。明治14年、江戸改め東京の妾宅と小樽の商店「きし屋」です。鐡太郎が北海道開拓史になったのを機に、あや乃とその仲間(お勝を除く)は新しい人生を求めて北海道に移り住み「きし屋」をはじめたのです。
小樽は明治維新とともに発展した町というイメージが強く、新しい人生の場に相応しい町です。そこで働く人々、彼らをいじめるヤツラとの闘いがあります。
その前段の東京での一幕が、明治維新の見方であり、この芝居のスパイスのような感じがしました。
女の自立
あや乃は没落旗本の嫁で、嫁いだ家の父と夫が上野山の戦で死に、生活のために芸者勤め。そしてなりあがりの薩摩郷士、今は明治政府の高官となった男の妾。それは言わば父と夫の敵に落籍されるという屈辱です。
それを金をせびりに来た義姉に罵られます。この芝居のいいのは、そんな建前で追い詰めようとする義姉を、本音で生きるための辛酸を舐めた女が啖呵を切るからです。