2021年7月読んだ本その2

7月の残り3冊です。ちょっと時間がかかりました。

林家木久扇 バカの天才マクラ/林家木久扇

 これは木久扇が木久蔵であった時代から襲名まで、1982617日~2007921日の落語会のマクラが載っています。マクラには落語家の個性が出ます。彼の売りはラーメンとバカです。本当は絵も描くし、才能豊かな人です。

 マクラは主に彼自身のことで、彼のもともとの師匠は桂三木助でしたが、すぐに亡くなり林家正蔵(のちの彦六)のもとに移ります。二人の名前から「木」と「蔵」をもらって久しくお客さんにかわいがってもらう、その名前の話が何度も出てきます。

 社会風刺はあまりありません。

『それまでの明日/原尞』

 寡作の原尞が2018年に14年ぶりに出した長編の5作目。大きな期待があったためか、ちょっと期待外れでした。でも結構面白かったのです。

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 探偵、沢崎が主人公です。彼の事務所に、金融会社の支店長をなのる、紳士の貫禄十分の男が訪ねてきて、極秘で融資先の料亭の女将の身辺調査をしてくれという依頼をします。社内の派閥争いが絡んでいるので、会社への連絡はなるべく控えて、報告も自分に直接してほしいという話をして、余分目の手付金をおいて立ち去ります。

 ところが、調査に入ってみると、対象者はすでに死亡していることがはっきりしました。依頼人に連絡を取ろうと、その金融会社支店に行くと、二人組の強盗事件に巻き込まれました。しかも支店長は行方不明となってしまいます。沢崎はデスクの写真を見て依頼人とは別人だと知りました。

 謎がだんだん膨らんで行くのを、足で追いかけていくと、それらが少しずつ関連付けられていきます。依頼人及び支店長が行方不明、調査対象者が死亡していること、強盗事件というバラバラな出来事が、見事につながるという風にはいきませんが、微妙なつながりを持って、無事終了しました。

 沢崎の魅力は何だろうと考えます。探偵の能力ではありません。ストイックであり権力と暴力になびかない、それは探偵の最低条件ですが、私の好きな柴田よしきの花咲慎一郎、藤田宜永の還暦探偵・竹花もそうで、彼らに比べると、沢崎は一層ストイックで、厳しい感じの男です。そこに優しさを感じる部分もあります。

『世界7月号』

 何時も全部は読み切れません。しかもここに載せるのも、かなり限定的で、私の能力の範囲内です。知らないことが多すぎるといつも思います。

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特集1:スマホとヒトと民主主義

【便利な端末が私たちにしていること/橋元良明(東京女子大学)】

「情報の記憶を外に確保すると、人は自分の脳からその記憶を消し去ってしまう」「私たちの関心がますます狭隘化し、興味のある情報にしか接しないようになる」「実際の意見分布を必ずしも反映していないかもしれない極論が、虚構の世論を形成する場合がある」「ネット空間は、熟慮された意見が交換される民主主義の場になるどころか、その阻害を助長する契機をはらんでいる」

 いずれも私の実感です。

特集2:さらば、オトコ政治

【クオータの取扱説明書(トリセツ)――なぜ候補者を女性に割り当てるのか/三浦まり(上智大学)】

 日本のジェンダーギャップ指数は120位です。女性の社会進出を世界標準にまで進めるために、まず政治の分野で「クオータ(割り当て)」の導入が必要、という意見です。

 たしかにパット見ただけで、私が知る世界の主要国と比べて、女性の社会的地位は全体的に低く、指導的な立場の人の数は少ない等、大きく遅れています。それを改善し政治、経済、高級官僚、管理職、企業役員などに波及させるために、まず政治の世界にクオータ制度を導入すれば、世の中は大きく変わるような気がします。

 ここでは実証的に、世界の動向を書いています。選挙の立候補者にクオータを導入することは、北欧から始まり中南米、EU、韓国も続き、129か国が、その制度を持っています。

 それらの国を事例として、日本によくある反対論を徹底的に論破しています。「下駄をはかせる論」「女性が望まない」「民主主義の劣化」等です。そしてクオータの導入は、政治家の質を問い、候補者の選出過程を問うようになるといいます。

 具体的に、日本での男女共同参画推進法は女性候補者を「政党が数値目標を掲げることを努力義務」としているが、それを「義務」にかえて、さらに衆参の比例代表に効果的に導入することが必要といいます。

【〈当たり前の政治へ〉炎。新宿区パートナーシップ制度をめぐる状況報告/よだかれん(新宿区議)】

 トランスジェンダーの女性として新宿区議の依田花蓮さんが「新宿区パートナーシップ及びファミリーシップ届け出制度に関する条例」提案の顛末を書いています。

同性カップルを「法律婚夫婦に準じた扱い」にする制度で、現在105自治体、全人口の34%をカバーしています。そして多くは議会で決める条例ではなく、首長の裁量である「要綱」が多いそうです。

 新宿区議会では共産党立憲民主党社民党、スタートアップ新宿そして彼女の属する「ちいさき声をすくいあげる会」5会派15名(定数38名)の共同条例提案です。

 結局、少数否決されます。区長与党の公明党は「区長のリーダーシップとともに進めたい」と反対意見を述べています。

 これは何ら多数者の利益を損なわないものであるのに、それを否決する、露骨に少数者の排除です。国地方を問わない自公政治の実態です。

【メディア批評【第163回】/神保太郎(ジャーナリスト)】

①「森友改ざん事件」

 公文書改ざん問題でとどめず、安倍政権の介在が認められるかどうか、そこまでジャーナリズムは監視するべき、そのとおりです。

②「「五輪反対」が言えない新聞」

全国紙4紙[朝日][読売][日経][毎日]が五輪のスポンサーで、社説で明確に反対を打ち出さない状況が批判的に書かれてあります。地方紙[信濃毎日][西日本]等から反対の声が上がり、[朝日]がこの記事の締め切りぎりぎり526日に反対の社説を書きました。インターネットで調べると、それから反対する論調が増えます。[神戸]は529日で「中止も視野に入れるべき」という程度でした。

片山善博の「日本を診る」【140】災害時における個人情報開示の是非/片山善博早稲田大学)】

 標記の問題で知事、首長は悩ましい、プラスの面とマイナスもあるからで、片山さんの解決策は条例できちん、具体的に定めるべきだというもっともなことことでした。それは議会での議論をするということです。