神戸演劇鑑賞会8月例会『明日(あした)1945年8月8日・長崎』青年座公演8月19日20日

 神戸では運営サークルと称して、年に1回、例会の運営を会員が担当するというシステムがあります。これによって、会員は鑑賞会の状況を知ることが出来るし、担当した芝居の魅力、劇団をより深く知ります。何よりも異なるサークルの会員同士が知り合いになれます。

 運営サークルの重要な任務の一つに、会員の拡大があります。会員は放って置けば減少するばかりですから、増やす努力、知り合いに呼びかけることが大事です。

 この芝居に関心を持たれたら、下記の演劇鑑賞会のHPにアクセスして会員になってください。

http://kobeenkan.my.coocan.jp/index.html

 私は8月例会『明日』(青年座公演)を担当し会報係になりました。10人程度が集まって、脚本を読んで芝居についての意見交換しながら、鑑賞の手助けになるような記事を書きます。

 私は、芝居を見る時に「知っていたらいいな」という長崎のことを書きました。

 会報の記事とはまた別ですが、ここに私の感想を書いておきます。

脚本を読んだ感想

 『明日』は、アジア太平洋戦争末期の長崎市民の日常生活を描きます。88日銃後ですが、つつましやかな一組の婚礼が行われました。

 そこに集まった人々、何組かの家族の今日の悩みと明日の予定が、個別に語られます。

 空襲はあるものの、今日が在りそして、同じような明日もやってくると思う人々です。日々の悩みはそれぞれ多種多様にあります。

 新婚となった夫婦の会話、刑務所に入っている夫への差し入れ、妊娠に気付いたが約束を交わした男が帰ってこない看護婦、娘の入院する病院から出てくれという手紙が来た親、そして9日の早朝に生まれた赤ん坊等。ささやかな市井の暮らしがリアルに描かれます。

 婚礼で広島の「新型爆弾」は話題になりますが、我がこととは思いません。米軍の九州上陸の危機感は少し持っています。6月末に終結した沖縄の住民を巻き込んだ悲惨な戦場のことも薄々伝わっているようです。

 しかし南洋の島での悲惨な戦闘、「玉砕」という美名に隠れた殺戮、日本軍が中国大陸で行ってきた蛮行などは、おそらく知らないと思います。5月にドイツが降伏して、日本だけが世界を相手に戦っている意味をどれほど考えているのか、それはわかりません。

 空襲が何度もあり、配給の食料は日々乏しくなり、銃後の暮らしには間違いなく戦争が苦しいものであるとは感じても、破滅があるとは考えていません。

 芝居で描かれる彼らの日常は、「銃後」の感じはあるものの、自分たちが破滅するという切迫した危機感ではなく、もう少し我慢すれば、明日はよくなるのではないか、という思いが出ています。

 だから89日にこの命と生活が消滅する原爆、戦争に対する怒りと悲しみ、そして憐れさが、私たちに伝わってきます。

 私たちは89日の破滅を知っています。だからそう思うのです。原爆の熱線と爆風、壊滅的な被害は描かれていないのに、見えないものが見える思いです。

ウクライナ戦争の下で

 原作が書かれたのは1982年でした。それから40年を経て、私たちはこの芝居を観ます。現在、戦争の恐怖は、アジア太平洋戦争のそれではなく、日常的にテレビを通じて入ってくるウクライナ侵略戦争です。

 子どもや民間人がミサイルで殺され、破壊された街の映像です。

 その戦争を見て、日本の支配層は軍事費を倍増、5兆円増額の方針を示しました。そして選挙でそれを支持する政党、政治家が圧倒的多数を占めています。日本の国の形が名実ともに軍事大国へと舵を切ったと、私は思いました。

 この脚本を読んで、私の思いはそこと繋がりました。

 今日が「88日」にならないために、私たちが考える国の形はどのようなものなのか、ということです。

 819日芝居を見た後にどんな感想を持てるのか、楽しみにしています。