2022年10月に見た映画

『WANDA/ワンダ』『人生フルーツ』『夕なぎ』『メイド・イン・バングラデシュ』『流浪の月』『ニューヨーク、親切なロシア料理店』『アイ・アム・まきもと』『空のない世界から』色々とやるべきがある中で7本の映画を見ました。

 好き嫌い、良い悪いの評価とは別に、いずれも特色ある映画でした。今月もなるべく簡単に書きます。

『WANDA/ワンダ』

 ちょっとわからないままに見終わった映画でした。

 米国の片田舎、炭鉱町に住むワンダは、夫から離婚を突きつけられていますが審問に遅刻する有様です。親権も放棄して、全くの根無し草のように、街を出ていきます。

 行きずれの男に拾われて、ついていきます。そして強盗の手伝いもするという展開です。彼女には主体性が見えません。

 この映画の主題はなんだろう、と考えますが、彼女の自我がみえず、行く当ても、生きる目的もなにもないままにふらふらしているようにしか、私はわかりませんでした。 

『人生フルーツ』

 大ヒットしたドキュメンタリ―です。映画サークルの特別企画です。神戸でも再々再上映ぐらいですが、たくさんの人に見ていただきました。

 90歳夫と87歳妻の夫婦が主人公です。彼らが、ニュータウンの中に構えた大きな敷地(4区画ぐらいありそう)の家と周囲に植えた林や畑とともに、四季の移り変わりを味わいながら、自然とともに生きていくような姿を描きます。

 でも私は首をかしげる映画です。

 彼らは色々な意味で人生の成功者で、最晩年も認知や寝たきりになることもなく余裕をもって生きています。便利さを求めず、手間暇かけてつつましく生きています。うらやましい豊かな生活です。

 でもそれは内向きに見えるのです。社会に向かって、何か発信しているようには見えませんでした。

『夕なぎ』

 1972年のフランス映画で、ロミー・シュナイダーイブ・モンタンの主演です。

 画家の元夫とエネルギッシュな実業家の間で、上手に立ち回る女のロミー・シュナイダーが演じています。その魅力だけの映画です。

『メイド・イン・バングラデシュ

 ダッカに住む一人の女性シムを中心に、縫製工場に働く彼女と同僚の女性たちを描く映画です。私の好きなタイプの映画でした。

 彼女たちは劣悪な労働環境で、低賃金で働いていました。工場の火事で一人の女性が死にます。

 それをきっかけにシムはこの酷い状況を何とかしたい、と考えます。そしてバングラデシュの現状と闘う人々との出会いがあって、彼女は労働組合が現状を変える力になると確信します。

 孤軍奮闘のような彼女が描かれます。夫の反対も含めて、苦しい中でも突き進んでいきます。社会を変える力は何なのかが描かれていました。

『流浪の月』

 私にはこの映画、この手の話は合いません。違うと思いました。

 女児誘拐犯と決めつけられた男(松坂桃李)とその被害女児(広瀬すず)が15年後に再会する、それを被害女児の現在の恋人がSNSに出して、15年前の事件がマスメディアにも出て、炎上する・・・という話です。

 この映画に出てくる人々は、自分の存在をかけて闘うというのがありません。無用な軋轢を避けたいというのはわかります。しかし世間一般的には、事件にされたのだから、事実ではないことがまかり通ることに対して、やはり闘うでしょう。

 さらに、この映画には真相を探る、警察なり弁護士、第3者は出てきません。現実社会と遊離しているように見えます。そこが嫌なのです。

『ニューヨーク、親切なロシア料理店』

 10月例会です。公開された時に見ていますが、再度見て、好きな映画の思いを強くしました。それは、それぞれに弱みを持った人間が、無意識のうちに寄り添いあってかばい合って生きている様が描かれているからです。

 202114日のブログには「隙だらけの映画、隙だらけの人間関係」がいいと書いています。

 気になる方は読んでください。

『アイ・アム・まきもと』

 英国映画『おみおくりの作法』のリメイクした邦画です。英国の公務員はわかりませんが、日本の公務員の気持ちは多少ともわかります。私は、この映画は「ちょっと違う」という評価です。

 牧本は、市役所で働く公務員で、身寄りのない死亡者の遺体整理を一人で担当しています。そして彼の動向や性格がとても奇妙だと、描きます。『おみおくりの作法』の主人公と同じです。でもそれは日本の市役所ではありえないだろうと思いました。

 田舎の市役所はしがらみがあります。彼の仕事ぶりも、そのしがらみをたどるもので、それを無視しては、うまくいきません。

 ある遺体の処理の時に、写真をみて戸籍にはないが「彼には娘がいたのではと」捜し始めます。人と人のしがらみをたどるのです。

 私は死んでしまった人はどうでもいいと、心の底では思っています。もし彼のような仕事をするならば、死者とかかわる生きている人たちを手助けしたいと思います。

『空のない世界から』

 「西神ニュータウン九条の会HP12月号に書きました。それを載せておきます。

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 現代の日本で、戸籍のない子どもは1万人ほどいるそうです。この映画は、無戸籍をテーマとした短いもの(67分)でした。問題を深く掘り下げるところまではいきませんが、どのようにして無戸籍の子どもが生まれるのかは描かれています。

 麻衣香は夫のDVから逃げ出しました。携帯電話を壊し、辺鄙な田舎に建つラブホテルにたどりつき、そこの住み込みで働き始めます。その時、彼女は身籠っていました。

 そして月日は流れ、出生届を出していない子ども、さくらは7歳になりました。彼女はホテルの外に出してもらえず、ホテルの中で、そこで働く人たちだけを相手に遊び、テレビを見て育ちました。

 それでも学校というものがあり、自分もそこに行けるものだと思って、麻衣香に「いつ学校に行けるのか」と再三聞くようになっていました。

 そのラブホテルには、雇われ支配人と麻衣香と一緒に働く不法就労のアジア人青年、そして常連客の売春婦がいました。

 ある日、流行らない老朽化したラブホテルを取り壊すとオーナーが言いました。みんな困ります。

 そんな時にさくらの存在が、外の人に知られました。

人間関係の薄さ

 麻衣香はDVの夫に見つかるのが怖くて、社会的な人間関係を一切絶っています。しかも世間一般の知識を持っていないようです。この先のことを考えることも出来ません。

 売春婦は元市役所職員で「戸籍のない子どもも学校に行ける」と教えました。麻衣香の事情を知ると、DVから逃げることを支援してくれる組織があることも教えます。そして、なによりも「あんたは大きな声で『助けて』というのよ」と、隠れるのではなく、役所や他人に助けを求める生き方を示唆しました。

 この映画は、社会保障も知らない、社会的に無知のままで生きている人々がいると描きます。生きる権利を知らない人々、彼らは親類縁者、友人とも切り離されています。この社会は、そのような弱者に対して優しくはないのです。

 これは誰の責任なのでしょう。