『焼け跡の高校教師/大城立裕』と雑誌『世界9月号』『前衛9月号』を紹介します。
『焼け跡の高校教師/大城立裕』
67年に芥川賞をとった人です。2020年5月に発行された本ですが、本人は20年10月に95才で亡くなっています。自伝的小説です。
敗戦後、48年から2年間、沖縄県野嵩高校(現普天間高校)に勤めたことを書いています。
上海の東亜同文書院大学中退で、高校の教師になります。そこでの生徒たちとの交流、校歌や応援歌の作詞、『青い山脈』を脚色して、高校生芝居の上演、高校入試問題の作成など、当時の沖縄の雰囲気がよくわかります。
ただ、沖縄戦の様子や米軍占領下というのがあまり出てきません。
教師の資格もなく、教科書や指導要綱もなくて、彼の持っている能力だけで高校生と向き合っていきます。文学好きですね。
あとがきで、現在の国語教育が文学を軽視していると批判しました。
『世界9月号』
特集は『私たちの日韓関係』『専門職の危機―研究者、官僚、医師、教員』です。
『徴用工訴訟の弁護人になったわけ』を書きます。これは林宰成(イム・ジェソン)さんのインタビューです。大学教授で弁護士、テレビ番組の司会もする人ですが、優秀な人ですが、その経歴、生き方考え方を見ると、その素晴らしさが増します。
聞き手は徐台教(ソ・テギョ)在日コリアン3世のジャーナリストです。韓国在住です。彼はイム・ジェソンさんを「弁護士としてのスケールの大きさや、端正なたたずまいに加えて柳のようなどっしりとした強さと柔らかさ」を持つと評価しています。
ほめ過ぎですが、これを読んで、まさにそんな感じがありました。
イム・ジェソンさんは、植民地時代の日本企業に対する「徴用工事件」、そして韓国政府に対するベトナム戦争の民間人殺害事件、済州島「4.3事件」にもかかわっています。
権力に対し臆することなく闘っています。大学生の時から平和運動家で生きていくと決めたようです。良心的徴兵拒否で16ケ月収監されています。
「平和とは加害者の位置に立てる勇気」と言っています。韓国軍のベトナム戦争を意識しての言葉ですが、それは日本も同じです。
現在の韓国社会については「格差が極端な格差社会」と見ています。日本の政府と区別して、市民社会に敬意を持ってくれていました。雑誌「世界」の依頼と分かって言っているのかもしれませんが、対立するものにも配慮を忘れない人です。
『前衛9月号』
『関東大震災朝鮮人虐殺の背景にある「植民地戦争」経験/愼蒼宇(シン・チャンウ)』を書きます。
著者は法政大学の教授です。
昨年の演劇『五四の瞳』や「神戸空襲と神戸港の写真展」、映画『福田村事件』などから、在日コリアンのことを調べてきましたが、現在の日本においても在日コリアンを嫌悪する人が多いのはなぜか、なかなかわかりませんでした。
これを読んで、植民地支配の圧政とそれに反発する朝鮮民衆の抵抗を、私も含めて現在の日本人は知らないと思いした。気付いたことを箇条書きします。
・関東大震災の虐殺は一過性のものではない。
・朝鮮史から解明するべきもの。日本の植民地支配に対して朝鮮民衆は繰り返し反発し、それを日本は武力で抑え込む「植民地戦争」は激烈であった。
・その時の陸軍幹部が、首都警備の幹部であった。
・内地の報道でも、弾圧を正当防衛、「不逞鮮人」が流布。
・「蔑視」から「虐殺」へいったのは、潜在的恐怖と憎悪が官民が共有していた。
・イメージ的に自警団に責任をかぶせようとしているが、軍隊、警察、自警団が虐殺の主役であることは明白。
・関東大震災の犠牲者は三度殺された。一度目は肉体的に。2度目は、国家権力に隠蔽され、社会的に。3度目は現在も自公政府は検証も謝罪もせず、歴史的に。歴史修正主義に保守的首長も同調している。