2023年11月に読んだ本

朝鮮大学校物語/ヤン・ヨンヒ』『アウトバ-ン組織対策犯罪課 八神瑛子/深町秋生』『星界の報告/ガリレオ・ガリレイ』『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別/藤田早苗』『どうせ曲がった人生さ/立川談四楼』『熔果/黒川博行』の6冊と『世界11月号』『前衛11月号』です。

 この月は面白い本が多かったです。

朝鮮大学校物語/ヤン・ヨンヒ

 小説ですが、ノンフィクションに近い作品ではないかと思います。198319872月までの朝鮮大学校の女子大生パク・ミヨンの学校生活、寮生活と規則、日本人との恋愛、北朝鮮訪問、そこでの驚きの実態が書かれています。

 全て「そうなのか」と疑いたくなるようなひどい姿です。金日成金正日という世襲、そして金正恩となっていますが、学校内部では、戦前の日本のように神格化、崇拝しています。

 今はどうなのか、違うという情報もありますが、確たるところは知りません。

 でもこの小説はとても面白かったです。主人公パク・ミヨンは作者自身かと思いますが、朝鮮総連幹部の親との軋轢がありながらも、自分のやりたいことに邁進する姿にとても心打たれました。

 彼女は映画『かぞくのくに』も撮っています。

『アウトバ-ン組織対策犯罪課 八神瑛子/深町秋生

 ス-パ-ウ-マン刑事、八神瑛子シリ-ズの最初です。深町秋生がなかなか面白いのでシリーズ化している本を読んでみました。読ませるのですが、長編ということもあって、謎と謎ときというよりもアクション映画のようでした。


 主人公は美貌、喧嘩も強い、頭も切れる、加えて警察内の男どもの弱みを抑えている、そして反社会的勢力とも適当に付き合っているという女です。その周りに、桁外れの肉体を持つ元女子プロレスラー、闇の世界に君臨する中国人女性が協力者にいて、彼女と対立するのはキャリアの署長という配置です。

 真面目な刑事だった彼女が、一転して悪徳刑事になるのは、雑誌記者だった夫が原因不明の「自殺」をしたことです。その真相を追うことに全生命をかけています。

 シリーズ一作目は、このような関係を明らかにしていきます。取り上げられる事件は若い女性の「連続」殺人事件でした。  

星界の報告/ガリレオ・ガリレイ伊藤和行

 1610年に書かれたものを底本としています。その当時の科学のレベルやガリレオの考え方が分かる面白い本でした。

 110頁の短い文庫本で、その内ガリレオの「天文学的報告」70頁、訳者解説30頁ほどです。その解説や訳注があってとても助かります。

 「天文学的報告」は①「覗き眼鏡」で望遠鏡製作の話、その望遠鏡を使って②「月の表面」で月に凸凹があるという報告、③「恒星」で宇宙には目で見えている以上の恒星がある、星雲は無数の星の集まりという話。④「メディチ星」は木星の周囲にある星(衛星)の観測記録です。まだ木星に衛星があるとはわからない段階で、それを解明しようとする姿がうかがえます。

 天上と地上は違うという、それまで宇宙観を変える、地球と月は似ているという考えを出しています。

 宗教弾圧にあっても「それでも地球は動いている」と言ったというガリレオの考え方がわかります。

『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別/藤田早苗』

 日本が人権の後進国であるとは思いませんでした。平和憲法のもとで、多少の不都合はあるものの、ある程度守られていると思っていましたが、国連からは何度も是正勧告を受けながら、それに従っていない国であると知りました。

 それをマスメディアが重大なこととして取り上げていない国でもあります。

 この本で人権の基本的なことを勉強しました。

・政府には人権実現の義務がある。

 3つの義務とは①人がすることを尊重し、不当に制限しないこと(尊重義務)②人を虐待から守ること(保護義務)③人が能力を発揮できる条件を整えること(充足義務)

 政府の義務を明確に意識していなかったし、特に③の充足義務を見落としています。そして闘いによって「政府の義務」を果たさせてきたことが人類の歴史だとも思います。

 「情報・表現の自由」については、忖度の要素が高いと思っていましたが、そこに言及した国連特別報告者に対する批判、その活動までも監視することは、指摘通りに不当であり後進性は明らかです。

 それを告発するためにはメディアの連帯、ジャーナリストの団結が必要ですが、それがありません。

・一番深刻な人権侵害は極度の貧困

 ここでも日本の生活保護制度の「扶養照会」や給付の引き下げに批判があります。23年にあった西神NT9条の会の平田オリザさんの講演でも少し触れられていましたが、より人間らしく生きる権利、社会権に対する認識が低いと思います。

・発展・開発・経済活動と人権

 発展途上国に問題は多いのですが、日本では外国人労働者等国内問題もありますし、パワハラセクハラなどの企業体質です。多国籍企業の責任も大きし、それは先進国共通の課題です。

・男性の問題でもある女性の権利

 性暴力は重大ですが、気づかない慣習的な差別にも考えさせられます。私はそれに鈍感です。

 その他入管問題にも触れています。そして是正勧告を実施させる仕組みが、制度と機関が必要と強調しています。それはその通りですが、まずは国民の意識を人権に向けさせることが必要です。自分の人権のことも他人の人権、他国民の人権にも意識が低いと思いました。