「暴雪圏」佐々木譲 新潮社

 彼の本ばかり読んでいるのではないけれど、ここに紹介したいと思う、面白い本は、やはり佐々木譲になってしまう。
 舞台は北海道。4月のある日、「彼岸荒れ」という季節はずれの大嵐(大雪と大風)に襲われた町の一昼夜。嵐は瞬く間に、その町を雪でとざし、一切の行き来を封じ込めた。その予想外の雪と風が、そこに住む人々の様々な事件を意外な方向に導き、素顔の人間性が織り込まれる。それらを書き分ける筆力は素晴らしい。
 中心に座るのは町の駐在。登場順に事件を紹介していこう。まず死体発見の通報。次が、がんに侵されたサラリーマン、彼は余命幾許かを面白く生きたいと会社の金を狙う。そして不倫をした人妻、彼女はもう手を切りたいが相手の男に脅され、最後の覚悟を考えている。最後がヤクザの組長宅に押し入った強盗。スマートにやり遂げるはずだったが・・・。
 これらが絡み合い、その中心人物が引き寄せられるように集まってくる。嵐の中を暖房施設が壊れたペンションで夜をすごす。
 この小説の中では、一つ一つの事件の結末まで書ききらないが、面白い。謎解きとか大掛かりなトリックがあるわけではない。だからどこが面白いと、明確にはいえないが、人間の心の動きが、良くも悪くも、いい人間になりたいと思うような作用をするところかな。