『東京島』『売国奴に告ぐ!』『これは誰の危機か、未来は誰のものか』『ヘヴン』『大転換』

 今月読んだ物で面白いもの、いや面白くなくてもちょっと引っかかったものを紹介します。
 『東京島』(桐野夏生)は変な小説です。無人島に流れ着いた2〜30人の人々の奇妙な話です。昔読んだ『ロビンソン・クルーソ』や『十五少年漂流記』のような痛快で健全な悩みを持つ冒険小説ではなくて、現代を風刺する御伽噺になっています。誰も助けに来てくれない無人島をトウキョウ島と名づけ、オダイバとかシンジュクなんて地名をつけます。
 出てくる人々は変人(人間は全て変人で、極限状態になるとそれが顕在化する、といえば普通の人ですが)で、遭難から力をあわせて脱出しようなどという話と、ほぼ180度違います。
 桐野夏生だから読み通せたのであって、でも結局良くわからない小説でした。
 売国奴に告ぐ!』手塚治虫の『アドルフに告ぐ』を気取っているのでしょうか。でも中身はきわめて真面目です。中野剛志と三橋貴明の対談という形で、とても読みやすい本です。
 二人はかなり高名で本も良く出しています。保守系の論客ですが新自由主義や消費税増税、「構造改革」、TPPなどに対して明確に反対を言っています。この本もそういった本です。
 ですから目新しい展開はないのですが、言い方がかなり辛辣なのと、例えば橋下とそのブレーンにたいしても、世間の新聞は、革新的な部分があるように書いていますが、彼らは従来の官僚や売国的保守の焼き直しだと談じているところに、読んで痛快感を感じたのです。
 なぜならこの二人は、そういう連中を良く知っているからです。まあいえば反逆的なポーズに対して「底が見える」といっているのです。
 『ヘヴン』川上未映子という芥川作家の小説ですが面白いようでいて、もしかしたらありきたりかも、という思いで読み通しました。
 私の友人が読めといって薦めてくれたので読んだのですが、主人公が中学生なのに、まず驚きました。そして簡単に言えば「いじめ」がテーマだといえます。
 そこから実存主義的な論説が展開されるというもので、だからちょっと安部公房を連想しました。私は10代の頃に彼の小説に読みふけれりました。それとよく似たことを10代前半の女の子の台詞として出てくるので、読んでいて戸惑いがありました。
 『これは誰の危機か、未来は誰のものか』スーザン・ジョージで、その昔『なぜ世界半分が飢えるのか』を読んで痛く感動したもので、分厚い本ですが買ってしまいました。
 良い本です。現在の世界中で生じている事柄を整理して解き明かしています。グローバリズム新自由主義を根拠を示して批判しています。
 となぜこのような奥歯に物が挟まったような言い方をするかといえば、この本の冒頭「日本の読者の皆さんへ」で、「日本は他の国の範ともいうべき、先進世界で最も平等な国です」というのです。
 それはそのとおりかもしれませんが、何とか読み通したものの、どうも釈然としない印象が残りました。
 それに引き換え『大転換』は予想もしない本でした。佐伯啓思という保守論壇の第1人者かなと思って読んだのです。正論大賞や読売論壇賞をとっています。
 それが読んでみると、新自由主義グローバリズムを批判し、小泉等の「構造改革」路線もその愚を明らかにしています。流れはケイジアンなのかなと思います。市場主義は必要だが、それの基礎となる生産の3要素は社会的なものと明確です。それでいながらマルクス主義疑似科学主義とまで批判しています。
 そういったことを除けば、至極全うな意見だと思います。神野先生の論にも似ています。