4月の後半は『世界4月号』『フォッサマグナ/藤岡換太郎』『声に出して笑える日本語/立川談四楼』の3冊。
『世界4月号』
雑誌『世界』はいつも内容が多くて、一度読んで、しばらくしてからここに書こうとしたときに、もう一度読むという作業になっています。論文、記事を要約するのは難しいし、感想を書くのもなかなか大変です。
私の関心あることに絞って書きます。
特集1「デジタル監視体制」
【危険すぎる狙い パンデミック監視資本主義の台頭――デジタル網に閉じ込められる私たち/小笠原みどり(ジャーナリスト)】【提起 デジタル庁構想批判の原則を立てる/小倉利丸(批評家)】【加速する既成事実化 実装される監視社会化ツール/武藤糾明(弁護士)】【市民の行動変容 中国デジタル革命と監視社会の行方/倉澤治雄(科学ジャーナリスト)】
この4編を読んでわかるのは①コロナ禍に乗じて作られようとしている②私たちのプライバシー、個人データが商業利用されようとし、商業活動を通じて掴まれたデータは行政に掴まれる③デジタル改革関連法案には人権への言及がない④デジタル政策はデジタル化の原則「技術の公開性」「個人情報を提供しない権利」「例外なき暗号化の権利」を満たしていない⑤マイナンバーカードは「権利」から「義務」へと変質している。中国は監視カメラ1億7千万台、顔認証を進めている。EUは慎重⑥科学技術の研究開発費、米国58兆円、中国55兆円、日本17兆円。
【手記 自治体としてパンデミックに立ち向かう(上)PCR検査の拡充へ】保坂展人(世田谷区長)
面白いのですが5月号(中)6月号(下)を読んでから書きます。
【フィルム・ノワールの階級政治 『暗黒街の弾痕』ほか/渋谷望】
久々に映画に関する論文が載りました。フィルム・ノワールと言われる1940~50年代の犯罪映画について書いています。今に通じることもあります。
犯罪者は社会によってつくられるという側面を描くものです。最初に、些細なことで(友達に誘われる、貧しさ、好奇心など)犯罪に手を染めたものが、レッテル張りや支配層、多数派による排除などによって、さらに厳しい状況に追いやられる構図です。
●片山善博の「日本を診る」【137】
【オリパラ組織委員会新会長選出の正当性を問う】
森喜朗前会長にの辞任に伴う、新会長の選出が組織原則を踏み外していることを指摘しています。しかもそれをマスコミなどがあまり批判しないのを見て、私は日本人の民主主義のレベルが低いと思いました。
組織委員会の憲法とも言うべき定款では「理事会の決議による」そうですが、定款にない「候補者検討委員会」なるものがつくられて、実質的にそこで決められました。そこには権限のない評議員もいます。しかも一部のメンバー以外は公開されていません。
そういう根回し的なことが、堂々と通る社会です。
●メディア批評【第160回】 神保太郎(ジャーナリスト)
森喜朗発言に伴う一連の騒動を書いています。彼の一連の言葉は女性蔑視、女性差別であることははっきりしていますが、最初、日本のマスメディアは容認していたようです。それが、海外のメディア、SNSの拡大によって辞任に追い込まれました。
しかし彼は傲慢にも後継者指名まで行きました。当然、バッシングは広がります。
それを見た一部の人たちは必死でかばいます。「おじいちゃんがかわいそう」「ボランティアでやっている」なんて嘘八百も平気で流されました。「ヒステリックになる社会はおかしい」私の近くでもそういう声がありました。
記事は「五輪幻想のディストピア」として東京オリパラ全体の状況までも批判しています。
『フォッサマグナ/藤岡換太郎』
NHK番組「ブラタモリ」が好きでよく見ています。それでこの本を読みました。
明治初期にドイツから招いた若き地質学者ナウマン(日本で発見した小型象にその名を遺す)が発見した、日本列島を真っ二つに分断する「巨大な割れ目」フォッサマグナ(巨大な地溝)は、その成因、構造などはいまだに謎に包まれていて、一般向けに書かれた解説書はなかなかつくられない、らしい。それに藤岡さんは挑み、推論を展開しています。
ナウマンは、長野県の平沢で激しい嵐に見舞われた翌朝、眼下に広がる異様な地形に「こんな光景がこの世にあるのだろうか。こんな大きな構造は見たこともない」と、それが世界に二つとない稀有な地形であることを確信したそうです。甲斐駒ヶ岳など標高差2000mの南アルプスが、間近に迫っていたからです。
「フォッサマグナ」はこの国の「背骨」のど真ん中を横断する、深さ6000m以上におよぶ巨大地溝(堆積物がたまっていて、どこまで深いか不明)で、地質だけでなく、動植物の分布から文化に至るまで日本列島を東西に分断しています。
この前後の地層は1億2,3千年前からのものですが、フォッサマグナのそれは2000万年前です。
日本と日本人にきわめて大きな影響を与えつづけ、日本列島の将来は語れないのですが、ナウマンの発見以来、この地形は幾多の研究者の挑戦を拒みつづけ、その成り立ちも、本当の境界線はどこにあるのかさえも、いまだに謎(西は糸魚川-静岡線ですが、東は不明)に包まれています。確かなのは、世界を見渡しても、このような地形はほかに類がないということだけです。
本の章立てを書いておきます。
序章 ナウマンの発見/第1章 フォッサマグナとは何か/第2章 地層から見たフォッサマグナ/第3章 海から見たフォッサマグナ――日本海の拡大/第4章 海から見たフォッサマグナ――フィリピン海の北上/第5章 世界にフォッサマグナはあるか/第6章 〈試論〉フォッサマグナはなぜできたのか/第7章 フォッサマグナは日本に何をしているのか/コラム「フォッサマグナに会える場所」
『声に出して笑える日本語/立川談四楼』
アナウンサーなどの言い間違え、無知からくる誤解、それから落語界のしゃれ言葉など実話に基づくおかしな日本語を集めたエッセイです。
2009年の発行ですから「云々」を誤読して「でんでんムチムチ」と言われたことは入っていません。でも政治家の無知をあざ笑うコーナーがもないのが残念です。
いくつか気に入ったものをピックアップしておきます。
「海のモズク」「悲しみのズンドコ」「汚名挽回」は「名誉挽回」と「汚名返上」が混乱しています。「先立つ不幸」。カップルで「一泊旅行」と「一発旅行」「私は差別する人と黒人が大嫌いだ」
落語界等その筋のしゃれ言葉もあります。
蕎麦屋でそば前の注文で「ヌキ」。台ヌキということで、てんぷらそばのそばがないものだそうです。
居酒屋の張り紙「春夏冬升々半升」はアキナイマスマスハンジョウ。
「こなから」は「二合半」と書く。もとは「小半」と書いて「こなから」と読み四半分の意味で、1升の四半分で二合半、ちょうどいい酔いですね。