「創られた『日本の心』神話」輪島裕介 光文社新書

 市民映画劇場四月例会『こまどり姉妹がやって来たヤァヤァヤァ』の参考資料で、標記の本を読みました。とても面白い本で、日本歌謡界、演歌について書かれています。副題が「『演歌』をめぐる戦後大衆音楽史」となっています。
作者は1974年生まれで、私より約20年若く、同時代を生きたとは言いにくい人です。ですから客観的な論評や私がまったく知らない時代の歌謡界の動きはすんなり読めましたが、いわゆる「多感」な時代の歌や歌手について書かれてあるところは、ちょっと違和感がありました。
 とりあえず、見出しを並べています。時間が有れば、というかいずれ時間を作ってコメントを書き込んでいきます。
 まず最初に言っておかないといけないのは、「演歌」という言い方は1960年代に生まれたということです。決して「日本人の魂の叫び」ではなく、流行歌とか歌謡曲といわれる中の一分野です。それがなぜ「『演歌』という言葉を『日本の心』と結びつける、その知的・言説的な操作を明らかにする」というのが、この本の目的だそうです。
はじめに−美空ひばりは「演歌」歌手なのか?
 美空ひばりの評価の変化を、時間的に分析することで「演歌」がある意図で作られていったことを言います。美空ひばりは「現在、公的なメディアや知識人によって『昭和を代表する偉大な芸術家』として権威付けられ、彼女が歌う『演歌』は・・・『日本の心』と結び付けられ、賞賛されています」が、1970年代前半と正反対になっています。
 彼女はデビュー当時は「大人の歌を歌う『ゲテモノ』少女」であり、低俗で退廃的、裏社会との結びつきも批判されます。
 本書は、明治・大正期の「演歌」と違う、美空ひばりに代表される「演歌」の変遷が追われていきます。
第1部レコード歌謡の歴史と明治・大正期の「演歌」
第1章 近代日本大衆音楽史を3つに分ける
 3つの時代は「レコード会社専属制度の時代」「フリーランス職業作家の時代」「『J−POP』以降」に分けられる。最初は昭和初期から、次は40年代のGSブーム、そして平成から現代に至る時期です。
第2章 明治・大正期の「演歌」
 ここではタイトルどおりです。
第2部「演歌」には、さまざまな要素が流れ込んでいる
第3章 「演歌」イコール「日本調」ではない
 ここから本筋です。
第4章 昭和30年代の「流し」と「艶歌」
第5章 「作者不詳と競作」のヒット―1960年代前半の「艶歌」
第6章 ご当地ソング、盛り場歌謡、ナツメロ
第7章 昭和40年前後の「艶歌」「演歌」の用法
第3部「演歌」の誕生
第8章 対抗文化としてのレコード歌謡
第9章 五木寛之による「演歌」の観念化
第10章 藤圭子と「エンカ」の受肉
第11章 「エンカ」という新語
第4部「演歌」から「昭和歌謡」へ
第12章 1970年代以降の「演歌」
第13章 「演歌」から「昭和歌謡」へ
終章 「昭和歌謡の死」(と再生)