最近読んだ本をまとめて

 今日は久々に夕方まで時間が有るので、最近読んだ本をまとめて紹介します。これは、というのは別に1冊1冊項目を立てます。
「聞書アラカン一代 鞍馬天狗のおじさんは竹中労
 嵐寛壽郎が人生を振り返り、それを竹中労が書き留めるだけではなく、戦前戦中戦後の映画史を補足するレポートもあります。
 アラカンは「鞍馬天狗」と「むっつり右門」を代表作に持っていますが、それだけで十分すぎるほど売れていました。根っからの時代劇映画スターで普通人のモラルとは違う次元のモラルを感じます。
 どうどうと戦争反対を言いますが、それは戦地慰問をした際に、兵隊の苦労をよそに司令官や将校などが遊び狂っているのを見て、戦争の本質を見抜きました。寺内元帥(首相・元帥の息子)の官舎で春画を見たといいます。
 彼は山中貞雄を映画監督として高く評価し、彼を殺したことでも戦争を憎んでいます。
 戦後は初めての天皇俳優として『明治天皇日露戦争』にでます。「昭和天皇はん、あれそっくり真似したら、それこそ”不敬罪”、喜劇になってしまいよる」と明言します。しかし天皇をやったあとは、つぶしがきかず「ワテ大損をした」といいます。
 彼は天皇や戦争を肯定するような映画に出ていますが、実は反戦主義者で、権力に媚びず、右翼ではなく左翼です。
 彼の真髄はセックスの話で、禁句もたくさん出てきます。彼は真面目でもっぱら水商売相手で300人ぐらいだと言いい、雁治郎などは1000人切りだそうです。結婚、同棲と離婚を繰り返して、そのたびに無一文で出て行く。そんな男です。
「逃亡 ファイアボール・ブルース」桐野夏生
 女子プロレスラーを主人公にして、ミステリー仕立てでかなり面白い小説です。あとがきの冒頭に「女にも荒ぶる魂がある」と書いていますが、そうなのか、と女を見直しました。確かに、第1の主人公である弱いレスラーが、第2の主人公である、かなり強い師匠格のレスラーとともに歩む姿は、あらぶる魂を注入されていくみたいです。
 一方、出てくる男は弱いのと卑怯なのとで、ちょっとしっかりした男を出せよ、といいたくなりますが、厳しい女の目から見たらほとんどの男はこんなものかもしれません。
 どんな話かと言いますと、弱い女子プロレスラーの成長と、その師匠の生き様を縦糸に、一人の外人女子プロレスラーの死の謎を絡ませていきます。
 プロレス界、女子プロレス界のどろどろした世界はあまり出てきません。割とすっきりしています。
「花一匁」藤井邦夫
 「養生所見廻り同心 神代新吾事件簿」の副題通りに捕り物小説です。小石川養生所が舞台の人情物語です。この本には4話が収録されていますが、犯人像は大名の息子、博打打、浪人、大身旗本の娘という感じで、普通の時代小説です。
「光と幕」宇野重吉
 古本屋で目に付いて買ってしまったが、面白い。昭和32年発行の宇野重吉のエッセイ集というか、彼が色々なところに書いた短い文章を集めたものです。かなり内向けに、新劇界の親しい人に言いたい「芝居の心」みたいなことも入っています。
 宇野重吉劇団民藝の重鎮、寺尾聡(この本の題字を書いている)の父、ぐらいにしか知らない。「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」のような飄々とした老人役しかイメージになかったが、これを読んで、ちょっと変わった。理知的ではあるが怒りっぽい感じである。
 ちょっと紹介しよう。
 「演技と演出」では、演劇の演技に関する演出家と俳優の関係、そして映画のそれとの違いが描かれてある。映画では演出が「圧倒的な権威を持つ」という、それに比して芝居は戯曲、演出、俳優の比重は「演出がうまければうまいほど、演出家は、モリエールやチエホフを輝かせ、それを演じる俳優に光を当てて、自分は黙ってその陰に隠れていく」
 「映画俳優を志す人へ」は俳優や演技、役柄について深い考察がありますが、それは省略して言えません。彼の「怒り」の部分を紹介します。
「体力も養わず、本も読まず、唯与えられた役をその時その時十年一日のやり方で済ませている俳優が多すぎる」「営利本位の映画会社でどれいのように扱われる俳優になるのはやめなさい」