4月の残りは『親愛なる同志たちへ』『クライ・マッチョ』『すばらしき世界』になりました。やっと終わりです。四月は本数も多く中身が濃くて、魅力を持ったいい映画ばかりでした。ですから長く書いてしまいました。
『親愛なる同志たちへ』
ソ連時代に実際にあった事件を題材に、現在(2020年制作)のロシアで作った映画です。監督のアンドレイ・コンチャロフスキーは83才でした。
舞台になるのは1962年のソ連南部(ウクライナのすぐ隣)の地方都市ノヴォチェルカスクで実際にあった労働者のストライキ、デモをテーマにしています。53年スターリンの死を経てフルシチョフに変わった時代、『クーリエ:最高機密の運び屋』と同時期です。
スターリンの恐怖政治が緩んだことで、東欧諸国が民主化、自立の傾向をみせますが、それを武力弾圧します。一方で冷戦の緊張も高まりました。
国内でもいろいろあったようです。
地方都市で、労働者の賃上げを求めて怒りのストライキ、デモが広がっていきます。地元の共産党市政委員会がそれを収拾しようしますが、うまくいきません。
デモを弾圧するために軍隊が送り込まれます。抗議行動が過激になり、そして反抗する労働者に向けて発砲されました。
軍隊の司令官は、市政委員会の発砲許可に対して明確に拒否し、兵士に化けたKGBが発砲したと映画は描きました。
26人死亡87人負傷という虐殺という大事件になります。しかし当時は隠蔽されました。
前半は、この労働者のストの混乱が描かれ、後半は、委員会の女性幹部の娘が労働者の側でストライキに加わり、事件後に行方不明になっていて、それを彼女が懸命に捜す様子が描かれます。
映画自体は面白く、上手に作られています。ベネチア映画祭で審査員特別賞を受賞しています。
共産党幹部が無能で、労働者に全く信用されていない様子です。そして個人の利益を追い求めているように描かれます。鎮圧に動員された軍は労働者に同情的です。
ソ連時代の闇が描かれるのですが、なぜこれを今描くのかと思いました。
『クライ・マッチョ』
C・イースドウッドの監督、主演映画です。ちょっと期待外れでした。
年老いたロデオチャンピオンだった男マイク(C・イースドウッド)がメキシコに行って、雇い主の一人息子ラフォを別れた妻から取り返してくるという映画でした。
『あなたへ』の高倉健を見ている感じです。よれよれになったイースドウッドが、母親に逆らいながらも無垢な少年に男の生き方を見せるという映画ですが、私に言わせれば時代錯誤です。そういう意味で『あなたへ』まだましでした。
マイクとラフォは、妻が差し向けた追手を避けながら、米国に向かいます。ある街に逗留した時に、マイクの荒馬を馴らす技術が評価されてます。ラフォも乗馬を習い生き生きとしてきます。マイクは食堂の女主人と仲良くなります。
そして多くの邪魔を突破して、ラフォは米国に入りました。マイクは女主人の下に帰りました。
時代もあまりわからず、メキシコの状況も描かない、なんでしょうね。C・イースドウッドの自己満足の映画としか思えません。
『すばらしき世界』
2度目です。西川美和監督は現在の日本映画界で上質の映画を撮っていると思います。これもいい映画でもう一度見たいと思いました。
西神ニュータウン9条の会HP2021年2月号に、その紹介を書いていますが、以下に再掲しておきます。
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現代日本映画界の屈指の監督である西川美和さんが脚本、監督した『すばらしき世界』は30年前に書かれた「身分帳/佐木隆三」を現代に置き換えて、社会の底辺に生きる人々を見事に描きました。
少年時代から犯罪を重ね、人生の大半を刑務所ですごした三上正夫(役所広司)は、殺人による懲役13年の刑期を終えて出所しました。まだ40代、今度こそ暴力団の仲間内に戻るのではなく、堅気に生きようとします。
その姿をテレビ番組に仕立てようと、若いフリーディレクター津乃田(仲野太賀)が密着取材します。
持病を抱え、すぐに働くことのできない三上は、後見人の弁護士と一緒に生活保護の申請に行きます。古いアパートに入ることも出来ました。
仲間がいて
一人暮らしの三上は、周囲の人々と摩擦を起こしました。夜中まで騒いでいた階下の外国人労働者のグループに怒鳴り込みます。ある時は彼の前歴を知っていたスーパーの店長に万引き犯と間違われます。
生活保護を受けることを潔しとしない三上は、職を探し、服役中に失効した運転免許を得るために、教習所の費用を出せと福祉事務所にねじ込みます。
街角で、サラリーマンを恐喝している二人組の与太者を、三上は半殺しにします。切れやすい粗暴な面が表面化しました。
すべてうまくいかない状況で、三上はこっそりと暴力団時代の兄弟分に連絡を取り、遊びに行きます。そこで見たのは華美な外見の一方で、暴対法で潰されそうになっている組の現実でした。
再び真面目に生きようと戻った三上は、老人介護施設に職を見つけます。その夜、彼の部屋で弁護士夫妻、スーパーの店長、津乃田が集まって、ささやかな祝宴がありました。
しかしそれですべて上手くいくほど、この世は甘くありませんでした。
三上の周りに集まる人々は、彼が堅気で暮らすのを期待し応援します。ケースワーカーも気にかけてくれます。新しい職場の人々は彼の前歴を知らず、普通に接します。平凡な善意と悪意が混ざり合う人生です。
ここで生きる三上の懸命さに、見ている私が辛さを感じます。しかしその「普通の人生」の辛さは、一人ではないと感じた時に乗り越えていけます。
若い津乃田が、悪戦苦闘する三上に惹かれていくことに共感を覚えました。