2024年5月に見た映画その2

前回に続いて書きました。『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』『無名』『正義の行方』残り3つです。

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

 西神ニュ-タウン9条のHP6月号に書いたものを再掲します。

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公害は予防が大事

 現在、明石川流域で、大きな問題になっているPFASを扱った映画です。映画サークルの5月例会で多くの人に見ていただきました。

 米国の世界的な多国籍化学薬品企業デュポン社が引き起こした環境汚染、健康被害に対し、20年もの歳月をかけて裁判で勝ったという実話に基づきます。

 1998オハイオ州シンシナティにある大手弁護士事務所に勤めるロブのもとに、田舎の祖母の知り合いだという農場経営の粗野な男テナントが訪ねてきます。

 テナントは、自分の農場の牛の様子がおかしい、次々に死んでいく、隣に立つ工場の廃液のためだから、訴えてくれと頼みます。

 ロブは本来、企業側に立つ弁護士で、いったんは断りますが、農場があるウェストバージニア州を訪ねました。そこには荒廃した河川や農場、牛の悲惨な状況がありました。

 ロブは訴訟を起こしデュポン社に関連資料を要求しました。大きな部屋が一杯になる膨大な資料が届きます。

 ロブは汚染物質の正体を明らかにします。工場の従業員にも被害もあり、デュポン社はPFASの危険性を知っていながら40年以上も垂れ流していたのです。

 人体などに有害であるという蓋然性が科学的に明らかにされても、デュポン社は和解に応じませんでした。裁判を長引かせました。

裁判で勝っても

 この映画はPFASの危険性だけでなく、多くのことを明らかにしました。

何よりも裁判に勝っても死んだ人は生き返らず、健康も取り戻せません。環境も破壊されます。公害は予防が大事です。

 監督官庁は住民の立場、社会的弱者を守るために動かないという批判が見えます。

 そして大企業は法的規制がなければ有害物質でも儲けのために売り続けます。テフロンの売り上げは10億ドル/年ですが、補償はわずか数億ドルです。

 トップは責任を逃れようと画策します。しかし研究者はきちんとしたデータをすべて残していたのです。裁判にすべて出しました。

 マスメディアは中立的な報道をしています。独自調査をしたとは描きません。住民は金で動くことも隠しません。企業城下町の怖さもありました。

 さらに同じ弁護士でも、大企業の側と弱者の側に立つ弁護士の違いも見せます。ロブは心身をすり減らし家庭を顧みず闘いました。彼は高い報酬を得る仕事も知っていたのですが、最後まで挫けませんでした。素晴らしい弁護士魂を感じます。

 おもわず大手サラ金の弁護士であった大阪の二人、政治家となって弱い者いじめの好きな男たちと比べてしまいました。

『無名』

 日中戦争の時代の上海、日本、中華民国汪兆銘政権)、中国共産党のスパイが入り乱れての物語ですが、何を争っているのか、よくわかりません。トニー・レオンが主役ですから見ましたが、がっかりの映画でした。

 共産党のスパイが寝返って中華民国のスパイの側に来るという話だと思いますが、そこでの疑心暗鬼、葛藤もありハラハラドキドキですが、蔣介石の政権関係者が出てこないのです。日中戦争も日本と米英などの戦い、世界的な戦局もわからぬままですから、小さな盥の中の争いとして描いています。

 派手な格闘シーンはありましたが、どこがおもしろいのかよくわかりません。 

『正義の行方』

 1992年に発生した「飯塚事件」のテーマにしたドキュメンタリーです。

 登校前の二人の女児が殺害され、その犯人として逮捕された男は、最後まで犯行を否定していましたが、死刑判決確定後わずか2年ほどの2008年に死刑が執行されました。

 映画は事件の概要と、警察の捜査、新聞などの報道等を前半にまとめて描き、後半はそれを検証するように追っていきます。

 捜査に当たった警察関係者、DNA鑑定の評価、報道した西日本新聞の記者、弁護士、犯人の妻などにインタビューしています。

 犯人を確定するような物証がなく、本人は犯行否認のまま、いくつかの状況証拠(目撃証言、あいまいなアリバイ、女児の衣服に着いた繊維片、DNA鑑定等)による死刑判決でした。

 この映画で初めて知りましたが、1992年頃はDNA鑑定が使われ始めた時代で、科学的に確定したものではないということです。この時は、犯人と違うという鑑定も出ていました。

 そして現在は、遺族が再審請求をしていますが、裁判所は却下しています。その理由がDNA鑑定の疑義は認めたものの「犯人ではないという確定的なものではない」という理由です。「疑わしきは被疑者の利益」を逸脱しています。

 さらに元刑事たちの証言で、死刑にされた男は、この事件の前に同様に女児の失踪事件(未解決)があり、その容疑者の1人であったことも明らかにされました。そして元刑事は「その後同様の事件が起きていない」とも言いました。明らかな見込み捜査です。

 警察の捜査、メディアの報道、司法の判断など冤罪を生み出す要素を明らかにした映画です。