『キャタピラー』

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を見たのだが、どうも好きになれない。監督の若松孝二とは相性が悪いのだろう、と思う。寺島しのぶがベルリン映画祭の女優賞を取ったが、彼女の魅力を引き出しているとは思わない。
 戦争に対する批判は分かるのだが、四肢をなくした男ということで、どうしても『ジョニーは戦場へ行った』を連想させるし、それと比べると、あまりにも貧相としかいえない。
 『ジョニー』は主人公の魅力的な人間像を描くし、軍隊の非情、非人間的狡猾さも批判する。そして生命のすばらしさに辿り着く。
 『キャタピラー』は、戦争だけではなく、この男が持っている愚かさや嫌な人間性をも描くが、妻や父、親戚、村人も含めたあらゆる人間を嫌味に描く。寺島とのセックスには生命の息吹もエロスもまったく感じられない。男であり女である関係が、お互いを支えているとか、希望を持てない中に、習慣的な夫婦であっても絆があるともいわない。
 あの食欲と性欲に、いやいやに生きている感じではない。本能的なものしかないということだろうか。ドルトン・トランボのような「絶望の中の希望」というような高度な人間性を描かなくても、すべての人間にある、「その瞬間」の単純な喜びに辿り着かないことに、失望した。