『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』『少年H』『スタンレーの弁当箱』『はじまりの道』『永遠のゼロ』

 1月はたくさん映画を見ます。前半だけで標記のとおりです。これから『木下恵介傑作選』を見ますので、10本を越えるでしょう。
 全てに感想を書くわけには行かないのですが、とりあえず言わないといけないことだけを書いておきます。
嫌悪する映画
 それは『永遠のゼロ』のことです。本当はこの映画を見る予定はなかったのですが、周囲の人がけっこう見ていて「良かった」という感想をいっているので、原作者と考え方が根本的に対立する私としては、見ないで批判ばかりするのも信頼されないと思って、1月19日に見ました。
 やはり嫌悪する映画でした。
 原作を読んでいないので、そこまで言うのか、という批判を覚悟で言えば、原作者の百田尚樹とはあらゆる点で考え方が対立するのだと、ほぼ確信しました。
 映画評としては、いずれ『少年H』『風立ちぬ』とこれを一緒に書きたいと思っています。
 ここではとりあえず『永遠のゼロ』についてだけ書きます。
虚構の軍隊、虚構の人物
 映画は前代に生きる若者が、ゼロ戦乗りであった自分の祖父の実像を調べるために、その当時の生き残り人たちを訪ね歩くという話です。そして、その語りを映像で表すという形をとってます。
 祖父宮部久蔵(ちょっと『七人の侍』を連想した)は飛行機乗りとしては抜群の腕を持ちながら、妻子のために生きて帰ることを公言(多くの戦友がそのことを知っている)し、そのために乱戦に入らない男として知られていました。
 まずそこからおかしい。大日本帝国軍で「妻子のために生きて帰る」ことを公言できるのだろうか。
 久蔵は、飛行機学校の教官になった時に、事故死した生徒を侮辱した上官に向かって反論し、死ぬほど殴られている。この程度でそのぐらい殴られるのだから「妻子のために生きて帰る」ことを少しでも漏らせば、間違いなく重営倉行きだし、必ず死ぬ作戦に従事させれる。戦闘を避けているから間違いなく軍法会議行きだ。少しばかり腕のたつ飛行機乗りであっても、そうさせられる。
 この映画は虚構の大日本帝国軍、軍隊生活を作り上げた。
 また「妻子のために生きて帰る」ことを第1に考える男がゼロ戦に乗るのだろうか。ゼロ戦が、その当時世界1の戦闘機であっても、抜群の腕を持っていても戦闘で死ぬ。またこの映画でもわかるように故障も多い。飛行機の故障は死ぬことに等しい。
 久蔵は死なないために、死に物狂いで腕を磨いたのであれば、同時に死なない戦場を選択しただろう。そのためには危険の多い戦場には行かないし、そこへは他の者を行かしただろう。飛行機学校の教官にしがみつくだろう。
 そんな男が「いい人」であるはずがない。妻子にだけいい顔をする男は、だいたい嫌悪する男だ。ところが彼は部下にもいい格好をする。
 こういう虚構の男を主人公にすえ、全体として虚構の社会をつくると、多くの映画観客を感動させることができるようだ。
戦争は描かない
 この映画の特徴は戦闘シーンは描いても、アジア太平洋戦争、第2次世界大戦がどういう戦争であったかは、まったく描かない。
 一兵士の証言の範囲であれば、それでもいいが、祖父を調査する孫は、当然、この戦争の全体像を学び把握するだろう。しかし彼はそうしない、あるいは映画では、そのことを調べるということをまったく描かない。大日本帝国のことだけではない。ナチスドイツのことも調べるだろう。米国との国力の差もわかるだろう。中国や朝鮮半島への侵略も知ることができる。だが、この司法試験をめざしているインテリは、これらのことをまったく調べないし知らないままで押し通す。
 突然終戦になって戦後になるが、やはり原爆投下は入れるべきだろう。少しでもこの戦争に迫るのであれば、それは外せない。
 ラストシーンで、生き残ったものが久蔵の意志をついでいく感じのことを言うが、それならば戦前、戦中がどんな日本であり、現在がどんな日本であるかぐらいは入れるべきです。
百田は嫌い
 これまでも、この映画のおかしいと思うところを言ってきたが、百田を象徴するのは宮部の戦友の描き方だ。宮部久蔵を一番罵るのは、平幹二郎演じる長谷川です。彼は片腕を失い、貧しい生活をしていた。もう一方、久蔵を立派な人と賞賛する武田は大企業の社長です。あるいは暴力団の頂点に建つ田中冺の景浦です。立派な宮部をわかるのは立派な人であり、心貧しい者には宮部の立派な心はわからないといっているようです。
「感動した」人に
 この映画で多くの若い人が感動しているようです。だからきちんとした批評をするべきだと思っています。
 キネマ旬報でも批判するような、戦争の描き方です。おそらく誰が見てもおかしいと思うはずですが、わかりません。「積極的平和主義」が支持される最近の社会情勢ですから、歴史的な見方が必要です。
(続かない、他の映画は別に書きます)