『家族はつらいよ2』

標記の映画の感想を映画サークルの機関誌に投稿しましたので、ここでも紹介しておきます。
山田映画、今は昔
 私は四〇年ほど前から山田洋次監督のファンです。きっかけは『幸福の黄色いハンカチ』の花田欣也(武田鉄矢)に自分自身を感じたからです。そこから山田監督の代表作である『男はつらいよ』シリーズやそれ以前の『吹けば飛ぶよな男だが』、そして『家族』『故郷』『同胞』等を遡って見ました。
 私が山田映画に惹かれるのは、彼が描く人間像が好きなのだと思います。『男はつらいよ』の常連組は、寅次郎以外は堅気であり、善良な小市民です。そして世の中の有り様を憂うる映画全体の視線にも共感します。
映画の一つ一つは、傑作もあればちょっと残念と思うものもありました。 最近は毎年1本ずつ撮られていて「元気でいいね」と思って見ています。
 前作『家族はつらいよ』に続いて『家族はつらいよ2』も見ました。幸いにも興行的に成功しているようで、高年齢層にコメディ映画として評価されています。

 前作は高齢夫婦の離婚騒動で、今回は高齢者の自動車運転と孤独をメインテーマにしています。現代のちょっとした話題ですが、社会的にも個人的にでも、深く踏み込み矛盾を描く映像はありません。
 そして山田映画のベースは落語にあるといいますが、この二本はドタバタ喜劇ではあっても、人間の業とか悲哀を感じることが出来ません。それはこの映画に反社会的要因、あるいは疎外された人間がいないためだと思います。
 中心になるのは平田周造(橋爪功)と、その家族です。周造は戦後生まれで、山口県から上京してサラリーマンとして働き、結婚して三人の子どもをもうけます。今は定年退職して悠々自適の年金生活です。妻も元気で、一流企業で働く長男、専業主婦の嫁、孫二人と開発団地の戸建て住宅に三世代同居で暮らしています。現代日本人が願う幸せな家族の形だと思います。
 そして長女も次男も結婚して独立し首都圏に住んでいますが、まだ子どもはいません。
 彼ら全員、過去も現在も社会の秩序に納まっています。『おとうと』の鉄郎(笑福亭鶴瓶)のような「生活破綻者」はいません。寅さんのような「渡世人」も出てこないのです。
 そこがこれまでの山田映画と違うように思います。
 この映画では、70歳を超えて交通整理人として働く旧友(小林稔侍)を出します。彼の生活保護を拒否して働き続けた人生の「矜持」や身寄りのない葬儀の「憐れ」を描きました。
 違和感を持ちます。底辺に生きる人間の尊厳を垣間見せた昔のようにはつくれないのだな、という感想を持ちました。