『夜明けの祈り』の背景

 映画サークルの5月例会は『夜明けの祈り』です。第2次世界大戦が終わった後、ポーランドの実話を元に作られた映画です。ストーリー等は映画サ-クルのHPや子の映画の公式サイトで見てください。

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 ものすごく簡単に言うと、ソ連兵に強姦された修道尼たちがフランス人の女医の救済を得ながら苦しい人生を乗り越えていくという映画です。

 私は背景を担当しました。その原稿をここに載せておきます。

 神戸映画サークル協議会のHP神戸映画サークル協議会(神戸映サ)

とあわせて読んでください。

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 一九四五年十二月ナチス・ドイツが降伏して半年余り、ポーランドは解放されて平穏な暮らし、謹厳な修道院の生活が戻るはずが、ソ連軍の支配のもとで、修道尼たちは苦悩の日々を送っていました。

この映画の背景として①第二次世界大戦前後のポーランドの社会的状況、②舞台となる修道院について紹介します。

【背景1】ポーランドの悲劇

ナチス・ドイツ総統ヒトラーは、オーストリア併合など当初から領土的野心を隠しませんでした。またロシア革命レーニンから引き継いだソ連共産党スターリン書記長も、ロシア帝国時代の大ロシア回復の野望を秘めていました。

独ソ不可侵条約の密約の下、一九三九年九月ドイツのポーランド侵略を皮切りに第二次世界大戦が始まりました。ポーランドは瞬く間にドイツ、ソ連に分割占領されます。しかし亡命政府はロンドンに拠点を置き、国内にはドイツの占領に抵抗する組織(国内軍)をつくりました。

独ソ開戦の後はソ連も連合国側になります。亡命政府とソ連は、ドイツを共通の敵として一度は外交関係を持ちますが、これまでの経緯やカティンの森事件ソ連軍によるポーランド軍将兵の大量虐殺)の発覚等があり、両者の関係は悪化します。

ドイツの敗北が見えてきた時期に、スターリンは戦後を見越して、その傀儡となる国民解放委員会を設けました。

ソ連は、亡命政府を否定し国内軍が主導したワルシャワ蜂起を見殺しにして、彼らを壊滅に追いやりました。

ヤルタ会談ポツダム会談を経て、ポーランドの国境が大きく西側にずらされ、ドイツ東部はポーランドへ、ポーランド東部はソ連領に組み入れられました。そしてその地域住民は民族に応じて移住が強制されました。

 この時以降ポーランドソ連の勢力圏と見なされ、亡命政府と国内軍は西側諸国から見捨てられます。

ドイツ降伏後、亡命政府と国民解放委員会は合同する国民統一臨時政府を樹立し選挙による政権づくりをめざします。しかし実質的にはソ連の強い圧力のもとに、その衛星国として一党独裁体制つくりが進められました。

戦後、国内軍の残党は国家に反逆する敵とみなされました。

『夜明けの祈り』はこの時期です。敵兵の捜索と称して、ソ連軍が修道院に入ってきますが、それは抵抗活動を続けている国内軍兵士を捜索しているものです。

 

【背景2】修道院

戦後のポーランドは宗教を否定する共産党独裁政権下でも、熱心なローマ・カトリックの国でした。一九七八年第二六四代ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世を生み出しています。

戦前のポーランドローマ・カトリック圏の東端で、少数派として東方正教会プロテスタントなど多宗教、多民族が混在する国でした。それが第二次世界大戦後の国境線の変更、民族の強制移住などで九割以上がローマ・カトリックの信者の国になりました。

その戦前、戦中を含む過去の歴史の中では、ユダヤ人差別があり、同じスラブ人でも東方正教会を排除する傾向がありました。

この映画の舞台となる修道院と修道女とはどのようなものかを紹介します。

キリスト教において、神の教えにもっともかなった生活をするべく、特別な誓い(誓願)をたて、一定の戒律にのっとった生活を実践する者を修道士または修道女とよびます。彼らが集まって生活する場を修道院といいました。

修道生活はカトリック教会や東方正教会で行われるもので、プロテスタント諸教会ではほとんどみられません。

修道者の生活ぶりは各修道会によりさまざまですが、清貧(私有財産の放棄)、貞潔(独身生活)、服従(会の上長者への絶対的服従)の三つの原則的な徳目は共通となっています。

修道院は男女別住であり、祈りと労働がその生活原理です。戒律の厳しい修道院では毎日の日課が克明に定められており、女子修道院では外部との交流を厳しく制限するところも少なくないようです。

修道女は母として生きることを捨て、神に使える為に生涯の純潔を誓っています。ソ連兵に強姦された修道女が妊娠したことは、自分の意志ではないけれども誓願に背くことになります。彼女らの診察を修道院長が渋るのは、それが明らかになるのを嫌った為です。(Q)

参考資料:『ポーランド学を学ぶ人のために』渡辺克義(編)/『現代史とスターリン不破哲三渡辺治/その他インターネット資料