2023年11月に見た映画

『私はモ-リ-ン・カ-ニ-正義を殺すのは誰』『パリタクシ-』『ナイト・オン・ア-ス』『小さな麦の花』『ぼくは君たちを憎まないことにした』『ぼけますから、よろしくお願いします。おかえり母さん』6本です。ちょっと長くなりますが1回で紹介します。

『私はモ-リ-ン・カ-ニ―正義を殺すのは誰』

 フランスの実話に基づく映画です。モーリーンは小柄な女性ですが、フランスの巨大原発企業の労働組合書記長を務めるやり手でした。

 モーリーンは原発の技術が会社の幹部によって中国に移転されようとしていることを知ります。そんなことがやられれは会社は潰れ、5万人の労働者が首を切られる、と考えて、会社内部はもちろん、政治家など、あらゆる手を使ってでも止めようと走り回ります。

 そんな時に、彼女は自宅で暴漢に襲われ凌辱されます。彼女は果敢に戦おうとしますが、最初は被害者の扱いであったものが、心神喪失による証言のあいまいさを突かれ、警察当局から「自作自演」と決めつけられて容疑者の扱いになります。

 失意のモーリーンですが、新しい証拠を探して、闘い続けてついに無罪を勝ち取りました。しかしその間にアレバは解体再編されていました。

 国家的な謀略とともに、自由、平等、博愛の国であるフランスの女性への差別意識も感じます。そして戦後日本の「下山事件」を思い起こしました。

 厳しい攻撃があると思うが、こんな映画をつくるフランスの民主主義の分厚さを感じます。

『パリタクシ-』

 パリのタクシー運転手が、自宅から老人施設に移る92才の老嬢の相手をするという話です。一日の間に彼女の人生が語られ、パリ市内の思い出の場所に次々に寄っていくという小粋な映画でした。

 上品な老嬢ですが、彼女の人生は、刑務所に入るなど波乱万丈でした。

 一方、運転手の方は、借金まみれの生活で、違反切符がたまり免許取り消し寸前です。いい加減人生を生きています。

 そんな二人がだんだんと打ち解けてい様子がとても感じよい映画でした。 

『ナイト・オン・ア-ス』

 1992年に『ナイト・オン・ザ・プラネット』という邦題で公開されています。

 ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキを舞台に、タクシー運転手と乗客たちの人間模様を描くオムニバスでした。ジム・ジャームッシュらしいハチャメチャさが多い映画で『パリタクシー』とは違う味です。

ロサンゼルスは映画の女ディレクターと女運転手、ニューヨークは黒人と東ドイツ移民の運転手、パリは大使館に行くという黒人二人、その後に盲目の女性と黒人運転手、ローマはおしゃべりな運転手と神父、ヘルシンキは酔っぱらった労働者3人と不運な運転手という組み合わせでした。

 コントのような映画です。

『小さな麦の花』

 検閲のある国の映画は、注意してみますが、同時に監督の言いたいことは何だろうと考えます。この映画は用心しながら言いたいことを言った、そう思いました。

 現代中国の農村の話です。

 ちょっと障害ある女と結婚した貧しい男は、一頭のロバを相棒に、小さな畑を懸命に耕して二人寄り添って暮らします。そして日干しレンガを積み上げて、とうとう家まで建てました。二人の幸せが始まるかと思いましたが、突然事故で彼女は死んでしまいました。

 男は失意のあまり家を壊しロバを放り出して、どこか都会に行ってしまいました。

 何とも言えない映画です。じんわりと心を打ちます。少なくとも農村社会でも貧富の格差が大きいこと、政府の政策が貧しい人を助けるものになっていない、小さな声で、そこを突いています。

『ぼくは君たちを憎まないことにした』

西神ニュータウン9条の会HPに投稿したものを再掲しておきます。

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憎悪の連鎖は止める

 20151113日に起きたパリ同時多発テロ、郊外のスタジアムや市街地の飲食店、そしてコンサートホール、バタクランにテロリスト集団が爆弾を投げ込み、自動小銃を乱射します。130人の死者、300人以上の負傷者が出ました。

 この時に、ジャーナリストのアントワーヌ・レリスの妻エレーヌは、バタクランで殺害されています。

 アントワーヌは妻の死を確認した直後に、犯人グループに対し「君たちに憎しみを贈らない」というメッセージをSNSにあげました。それが大反響を呼んだのです。

 後に、彼は妻の死からの2週間、自らの体験や思いを綴ります。それを原作として作られた映画です。

 愛する者を奪われた人間の苦しみ、悲しみそして怒りがよくわかる映画でした。しかもそれを耐え忍んで、敵を憎まない、自分の生き方を貫きたいという強い意志と、弱い人間としての苦悩も伝わってきました。それをメッセージにしました。

平凡だが愛に満ちた生活

 映画は、アントワーヌと妻エレーヌ、幼子のメルヴィルの生活をていねいに描きます。都心のアパートメントの部屋、愛情豊かで、多少のいざこざを抱えた平凡な生活です。

 それが一転して恐怖の街に変わります。エレーヌとの連絡が取れないアントワーヌの苛立ちが描かれますが、映画はテロの現場や殺戮はいっさい見せません。テロリスト集団が誰かさえも、明示しません。

 そして彼の「君たちに憎しみを贈らない」とメッセージは一晩で20万もシェアされました。それを読んだ多くの人が賛同します。テレビや新聞等のマスメディアも大きく取り上げ、彼は英雄のように扱われました。

 しかしアントワーヌとメルヴィルの生活は、エレーヌを失った悲しみで一杯です。それが十二分に伝わりました。

敵を憎まない

 アントワーヌはエレーヌを失った悲しみと苦しみを噛みしめても、誰かをに憎むことを明確に拒否します。テロリストを詮索もしません。ただこの悲しみをメルヴィルと一緒に乗り越えようとする姿だけが描かれました。

 それが彼の生き方だと映画は明確に示しました。私は深く共感したのです。

 

『ぼけますから、よろしくお願いします。おかえり母さん』


 映画作家が、自分の父母を撮ったいわばプライベートなドキュメンタリーです。前作は段々と体も心も年老いて行く二人の様子がコミカルな感じでしたが、その続きのこの作品は、母親が認知症となり、最後は死んでいくところまで見せました。100才になる父親は、しかし大人気です。

 御影公会堂で上映しましたが、たくさんのみなさんがきました。大体高齢者です。近々ボケる人、その介護をしなければと思う人たちかな。それと福祉、介護の関係者と思われる若い人です。

 これはそういう映画です。