『人はなぜ騙されるのか―非科学を科学する/安斎育郎』『逃走の行く先 刑事何森/丸山正樹』『日本移民日記/MOMENT JOON』『ザ・ベストミステリーズ2022/日本推理作家協会編』『女たちのジハード/篠田節子』『マルクスの思想を今に生かす/鰺坂真・牧野広義』6冊と『世界3月号』『前衛3月号』です。
『人はなぜ騙されるのか―非科学を科学する/安斎育郎』
安斎先生の本は何冊か読んでいましたが、これは捜していました。それは「1と2は等しいことを証明する」を見たかったのです。元町の古本屋で立ち読みして、記憶の片隅にはあったのですが、きちんと覚えていなかったのです。

今回読んで理解しました。その落とし穴は現実社会にもよくあることだと思います。
「なぜ『負×負=正』か」というのもありました。これも数式で証明されています。
本は1996年に発行されたもので、安斎さんが新聞や雑誌に書いてきたエッセイをまとめたもので、1つが見開き2頁で編集されています。
内容はタイトル通りで、超能力、心霊現象、詐欺とごまかし等と科学の目と心について書いたものです。ほとんどが納得もいく内容で、こんなものを信用する方がおかしいと思います。(今回の兵庫知事選挙では、多くの人がSNSのデマを信じたようです)
本当に危ないなと思ったのは「紙幣の顔」です。福沢諭吉や伊藤博文、板垣退助など植民地主義者を平気でお札にしています。野口英世もあまりいいとは思いません。
そして論理の塊のような「シャーロック・ホームズ」のコナン・ドイルが妖精を信じていたのは知っていましたが、高名な科学者でも不可思議な現象に科学の立場ではない方に立っている人がけっこういることを知りました。ダーウィンと同時代に「自然淘汰説」を提唱したアルフレッド・ウォレスも心霊主義であったそうです。
『逃走の行く先 刑事何森/丸山正樹』

『逃女(とうじょ)』『永遠(エターナル)』『小火(しょうか)』そして『あとがき』
丸山正樹の代表作『デフ・ヴォイス』シリーズに出てくる刑事、何森稔を主人公にした連作短編集です。そんなに複雑な謎や残酷な事件ではなく、むしろ小さな事件で、その中にある社会の矛盾、社会の底辺に生きる人々を描きながら、読ませていく力がいいと思います。
『あとがき』で著者自身がこの小説を書いた経緯を書いています。いずれも2022年に出されたもので、実際の事件をヒントにしています。
『逃女(とうじょ)』はベトナム女性の技能実習生が、働いていた企業の管理者を刺して逃げた傷害事件です。
『永遠(エターナル)』は夢も希望もない人生を送っていた女性がホストに狂い、売春、殺人までしてしまいました。
『小火(しょうか)』
公園のトイレで小火があり、定年間際の何森はその担当となって、犯人探しをします。そこにはホームレスの老女、アフリカ系と見なされる少女が浮かび上がってきました。
いずれも小説ですが、法律の正義、何森の正義が葛藤します。非合法な「法を犯した女性」たちを支援する組織(主には合法、不法「移民」を支援)も創造して話に膨らみを持たせています。
何森は定年を迎えました。次はどこで働くのか、楽しみです。
『日本移民日記/MOMENT JOON』
2010年に大阪大学に留学生としてやってきて、日本で住んでいる韓国人が、2020年に書いたエッセイです。

「在日コリアン」の子孫ではありません。ラッパー、ミュージシャンです。日本人の外国人観がよく出ています。シニアコースの授業中に先生に教えてもらいました。
YouTubeの有名な動画の話では「黒人、白人、アジア人のグループがレストランで」日本のウエートレスはアジア人に向かってしゃべるが、彼女はアメリカ人で日本語が分からない。黒人と白人は日本が長く日本語ができるが最後まで、ウエートレスはアジア人に向かってしか話をしない。
日本人はそういう思い込みが多い、外国人、移民を、その個人よりも、その国、その人種のキャラクターで見てしまうそうです。
そして「差別」です。
Nワード、差別用語の使い方、その意味すること(チョンとかニガ-、ジャップ等)を差別者と被差別者の相関関係から考えます。そして在日の意味等はちょっと込み入った話し方になっています。
エッセイですがちょっと難しいかったです。
『ザ・ベストミステリーズ2022/日本推理作家協会編』
『スケーターズ・ワルツ/逸木裕』『時計屋探偵と二律背反のアリバイ/大山誠一郎』『アイランドキッチン/芦沢央』『攻撃のSOS/川瀬七緒』『光を描く/杉山幌』『手綱を引く/大門剛明』『コージーボーイズ、あるいは謎の喪中はがき/笛吹太郎』『ねむけ/米澤穂信』
その年度のベストミステリーを推理作家協会が選ぶ短編小説アンソロジーで、期待して読み始めましたが、いわゆる本格派、謎解きが中心で、私の好みと合いませんでした。残念です。
私の場合はミステリーでも、動機とか社会的背景、人物像の設定などが楽しみに読みます。
各篇を簡単に紹介しておきます。
『スケーターズ・ワルツ/逸木裕』
指揮者を志しながら挫折した人の昔話を聞きながら、その謎を解くというものですが、性別を間違わせるような会話でした。
『時計屋探偵と二律背反のアリバイ/大山誠一郎』
同時刻にかなり離れた場所で二人で殺人を犯したと思われる男のアリバイ崩しです。いわゆる安楽椅子探偵です。
『アイランドキッチン/芦沢央』
自殺か他殺か迷うような事件の捜査です。関係者、周辺の人々の証言を積み上げていきます。これは面白かった。
『攻撃のSOS/川瀬七緒』
ちょっとした体の動きで、怪我の有無がわかる男が、DVを受けている、それを隠している少女達に出会ってしまう。
『光を描く/杉山幌』
高校野球、ライバル校との対戦中にエースの様子がおかしい。キャッチャが試合中にその原因を見つけて解決するという
『手綱を引く/大門剛明』
警察犬の話ですが結局は、その訓練師の話でした。
『コージーボーイズ、あるいは謎の喪中はがき/笛吹太郎』
年末に、姉が喪中のはがきを出した。親兄弟、親戚は誰も死んでいない、なぜだ、それをミステリー愛好家のメンバーが推理する。
『ねむけ/米澤穂信』
強盗傷害の容疑者が交通事故を起こす。別件逮捕を狙うが、その交通事故の目撃者の証言がどうもおかしい。