「武士の家計簿」

 なかなか見ることが出来なかったのですが、8月21日の朝やっと見ることが出来ました。森田芳光監督の傑作、という評価をしたいと思います。


 加賀藩猪山家の家計簿に基づく映画です。時代劇映画に付き物のチャンバラのない映画ですが、「そろばん侍」と自称する、そろばんで主君に仕える猪山家の3世代にわたる父と息子、夫婦など家族の関係を中心に追いながら武家社会の変化も十分に描きこんでいます。
 色々と面白い観点は在りますが、まずそろばんがお家芸という武士の家をみんなが認めている点です。これはやはり幕末という封建社会の崩壊の手前だからでしょう。
 そして帳簿を通じて、藩政が見えるというのも、鋭い指摘です。飢饉の「お救い米」の出入りを追いかけて、藩内の不正を暴いた、というエピソードは、時代の変化とともに必要とされる能力も変わってきているということです。専門家の能力は、新しい時代を見て行きます。後に大村益次郎が「戦は兵士に配るわらじやおにぎりの世話をするものが大事」につながってきます。
 小さな自分の息子に読み書き算盤を教えるところで「郡上一揆」を思い出しました。あちら「村役の息子は、いつの日にか村人の役に立つために勉強しろ」と教えられます。それに引きかえ武家では我が家の存続のためです。どちらの階級が延々と続いていく階級かが如実に現れています。
 莫大な借金を抱え込んだ家計を立て直すために、質素倹約の生活に切り替えますが、その前に家に溜め込んだ陶芸品や着物を売り払うことにします。父や母は世間体もあるが自分の趣向品を奪われることに、少し抵抗します。
 しかし見事に溜め込んでいます。書画、本、着物、刀、陶芸など、その当時の芸術品が武士の家にはたくさんあったと言う事でしょう。それは、言葉を変えて言えば、芸術を作って行ったのは支配階級であったということでしょう。