山田洋次 50年の時が過ぎて

 標題のDVDを友人が贈ってくれました。これはNHKが制作、今年の1月に2回に分けて放映したドキュメンタリーです。
 [3.11]を目の当たりにして、山田洋次監督はクランクイン直前だった映画『東京家族』を一時中断しました。そしてシナリオから書き直したといいます。そんなことをすれば大きな損失が出ますが、それは松竹の大御所、山田監督だから出来たことでしょう。
 そんな彼が映画監督として50年、80作の映画作りをとおして考えてきたこと、日本をどう見てきたかをこれは紹介するものです。
 あちこちに書いてきたことですが、私の映画人生は『幸福の黄色いハンカチ』から始まりました。だから私は山田洋次監督の大ファンです。1977年以降の映画は、1,2本を除いて全てリアルタイムで見ています。『男はつらいよ』はほとんどの作品を遡ってスクリーンで見ました。80年代は「寅さん特集」と銘打って3本立てを見ることが出来ました。そして彼の映画のほとんどに拍手を送ってきました。

 『幸福の黄色いハンカチ』の何を見たかと言えば、武田鉄矢です。彼の役は、女の子にふられたことにショックを受けて、会社を辞めて旅に出た若者です。そして彼は、その旅を通じて成長する、という映画です。それに、当時20歳の私は共鳴したのです。
 ですから[3.11]で黄色いハンカチが掲げられたことは感動的ですが、私が映画から受けた感銘とは違います。
 今回のドキュメンタリーでは、前半は『男はつらいよ』と『家族』3部作であり、後半は時代劇シリーズに焦点があたっていました。それは概ね間違っていないのでしょうが、私の山田映画の評価とは違うな、と思いました。
 まず、ハナ肇主演の『馬鹿シリーズ』等がまったく除外されているのは理解できません。

 この『なつかしい風来坊』などには『男はつらいよ』の原形が詰まっています。愚かな男が巻き起こす、おかしくも哀しい映画です。
 そして後半は『学校シリーズ』の扱いが物足りません。私は、このシリーズが好きです。もしかしたら教育現場からは異論があるかもしれない、と危惧しますが、学ぶことで人間は人間らしくなるというのが好きです。


 このドキュメンタリーにも出てきますが、第1作の夜間中学での「幸福論議」は非常に良い、名場面です。学ぶということ、自ら考えるということ、そして教育現場で実践したいことだと思います。
 しかし私はちょっと違うと思います。「幸福感」はどうしても個人の思いに力点がおかれます。「幸福だと思えば幸福だ」に収斂しがちで、「不幸な現実を見て、自分が不幸だと思えというのか」は、とても辛らつな言葉で、それに反論するものは見つかりません。でもそれはそうではない、と思います。
 私は「健康で文化的な生活とは何か」を考える方がいいと思うのです。でもそれでは映画にならないのかもしれません。
 そして時代劇シリーズは、新しい時代劇を作り上げたと思いますし、藤沢周平の原作を取り上げたのも、山田監督の見識です。
 それに比べて『母べえ』『おとうと』はあまりにもずさんな考えから作れられのたではないかと思います。