ドラマ『それでも、生きてゆく』

 友人に強く薦められて、DVDを借りて11話を見通しました。それまではまったく知りませんでした。
 見通すには相当長い時間が必要ですから、物理的に時間を作ることさえも大変です。途中でやめずに見通したということは、その友人に対する義理もありますが、私は評価しているということです。それを前提にして読んでください。公式HPは以下のとおりです。
http://www.fujitv.co.jp/ikiteyuku/index.html


瑛太満島ひかり大竹しのぶ
 私は主演の瑛太満島ひかりも知らなかったのですが、なるほどおもしろい役者だと思いました。すでに主役級を張る俳優にはちょっと見当たらないタイプです。重い悩みを持つ役を、軽いというのではなく、苦しんでいても、それを突き放して、それに24時間浸かっていると言うものでもなく、少し客観的に見ることが出来る若者を演じることが出来る人たちです。
 設定を簡単に紹介すると、中学生が友人の妹である小学1年生をかなづちで殴り殺した事件があり、それから15年たった後の加害者家族と被害者家族を中心に、ドラマが展開するというものです。詳しくはHPを見てください。いやDVDを借りないとわかりません。
 瑛太が被害者の兄・深見洋貴、満島が加害者の妹・遠山双葉として、加害者である三崎文哉を捜し始めるいう設定です。
 最初に私の率直な感想を言っておくと、ドラマの展開も工夫が凝らされ、出ている俳優も非常に熱演しています。友人がテレビドラマ史上「出色」と評価するのもわかります。しかし少年の犯罪に対する捉え方描き方が違う、という評価です。最後の話の終わらせ方、それぞれの人生の歩み方も、いまいち納得がいきません。
 その中で大竹しのぶ[被害者の母親]の描き方は、彼女の力か脚本の力かわかりませんが、もっとも感動です。悲しみ、怒り、自己嫌悪、凶悪、愚かさ等、母であるが故の複雑な面、人間の持つ多様な変化を見せながら、子の母である自覚を取り戻す姿は、素晴らしいと思います。
 全てに対して感想を書くと、例え一つ一つが短くまとめても膨大なものになりますから、すみませんが、私の言いたいことだけを書きます。(なんにせよブログはその程度にしようと思っています)
 中学3年生の少年が、友人の妹、よく知っている少女を金槌でたたき殺すという殺人事件の設定は、かなり重要です。事故とか弾みではない、ということです。当事者にとってはかなり重い動機を持っていたということです。
 加害者は少年院を出ても家族の元に返らず、家族も探そうとせず15年が過ぎたという設定です。その間に加害者家族は「世間」に苦しめられます。被害者家族も崩壊しています。

 双葉が洋貴に会いに行きます。お互いに親しくなってはいけない、敵同士と思いながらも引かれていきます。その会話、心のゆれ具合は現代的な若者像だと思いました。この「好きになってはいけない人」という男女の関係はテレビドラマの常套的な展開です。
 ドラマ全体の前半は、それぞれの家族の話です。「世間」というのは無責任で残酷だと言い放ちます。家族一人ひとりが被害者とのかかわり、加害者とのかかわりを確かめるようなエピソードが展開します。この辺りは映画ではなくテレビドラマの特徴です。


 後半から加害者・文哉に迫っていきます。しかし色々なエピソードが結ぶ像は、ちょっと支離滅裂ではないかと思います。ユリイカ5月号で脚本家自身も「納得いく描き方が出来なかった」といっています。
 殺人の動機が常人では理解しにくいものです。最初の少女に対しては、少年の混乱の中での殺人です。そこは十分解明されずとも良いと思います。しかし少年は15年後にまたもや殺人を犯します。それから以後に、その動機、というか彼に殺人を犯させるキーワードは「生まれてこなければ良い」ということを出し、自殺した実の母を訪ねて逃避行を行うという展開になります。それは必然的に彼の異常な行動を引き起こすものは、幼少期の母との関係といっているに等しいと思います。

 しかし、そんな人間は殺人を犯し、その反省もしない、人の痛みがまったくわからない人間であるという設定には、やはり納得がいきません。
 彼はなき実母の写真を見て涙を流します。決して永久氷河の氷にとざされていたわけではないのです。それを医療少年院の医者たちは見抜くことができなかったということです。
 この辺りもちょっと抵抗感があります。精神医学の医者は、文哉みたいな人をたくさん見ているわけですから、彼のような重症者は、数人の医者で見るでしょう。軽々に診断せず、誰かがおかしいと思うと、私は思ってしまいます。
 見逃すという、そういう可能性はないとは言えませんが、そういう特殊例から、加害家族と被害家族の関係を描くのも、どうかな、と思うのです。
 最後にもう一度言っておきます。大竹しのぶはやはりすごい俳優です。