『ペコロスの母に会いにいく』『そして父になる』『もう一人の息子』『天使の分け前』『この空の花』『チョコレートドーナツ』『ベニスに死す』

映画の事をしばらく書いていません。見ていないわけではないのですが、気持ちにも時間的にも、ちょっと余裕がありませんでした。4,5,6月に見たもので、良いと感じた映画の一口感想を書くことにします。
ペコロスの母に会いにいく』
 実話に近いのだろうが、痴呆が入っていく母と中年の息子、経験的な先入観としては、介護は悲惨と思い込んでいる。もちろんそんな面はあるのだが、ほのぼのとしていた映画であった。
ペコロスとは小さな玉ねぎの名称で、日本独自のものだそうだ。主人公である息子のニックネーム、そう頭のこと。キネマ旬報の1位。
そして父になる』と『もうひとりの息子』
 どちらも子どもの取り違え事件を扱っている。『そして父になる』は日本で、エリートサラリーマン一家としがない電気屋一家の息子、6歳。『もうひとりの息子』はイスラエル人の軍人一家とパレスチナ人の自動車修理工一家の息子、18歳。
 見る前は『もうひとりの息子』に期待していたが、両方とも良かった。タイトルの違い通り、焦点の当て方が違う。こちらは家族関係に入るよりも、二つの国、民族を意識してしまう。両方の母の愛がとても自然で、もうひとりの息子を受け入れていく。父も威厳を見せようと頑張る。
 そうしたら、なぜ今のようなむごい殺戮が出来るのだ。一人ひとりの人間はやさしい。その矛盾。 
 『そして父になる』は、是枝監督作品の中では、私的には1番。福山雅治が熱演で、文字どおり父親を考えさせる。息子と向き合って自分を考え直す。いい映画だった。
 是枝監督と初めて感性があったのか。
天使の分け前
 4月例会で私は担当した。この映画の肝はやはりプレミアのついたウイスキーを盗み出すところではないか。犯罪によって立ち直るのは矛盾ではあるが、世の中矛盾だらけ。大金持ちの懐に手を突っ込んではした金を盗む、これぐらいは十分許せる。それは鼠小僧の痛快さである。
『この空の花』
 大林監督の執念の映画だ。彼の言いたいことが彼のスタイルで一杯詰め込まれている。長岡市という、神戸からはちょっと遠い市で、大空襲の被害があり、それを忘れずに平和を祈る花火大会があると初めて知った。元国の官僚だが、あの市長はいい役回りをもらった。
『チョコレートドーナツ』
 少数派は常に迫害されるが、同性愛者と障がい者という組合せは重い。でも彼らは明るく生きていた。それをとことん邪魔をするのは秩序を守る連中。実話から生まれたと言うが、差別をする、それも弱いものに対して法律を援用して差別をするのは良心が壊れているからだ。
『ベニスに死す』
 ビスコンティ監督の名高い作品だが、画面全体が抜けていない。ベニスと言う町が死病に取り付かれているからだが、そこにいる美少年も健康的ではない。多くの意見は彼は美少年と言う。
 確かに美しいが、私は美少年は健康的なものと思う。彼は疲れ果てた音楽家アッシェンバッハの芸術館を投影した偶像でしかないと思う。
 ビスコンティは、それを否定的に描いたと思う。