『テルアビブ・オン・ファイア』の学習会

11月例会学習会 講師:岡真理(京都大学教授)

 『テルアビブ・オン・ファイア』を担当して、中近東の歴史とパレスチナの現状を調べました。『ガザに地下鉄が走る日』(岡真理)を読んで、これまで何度かパレスチナの映画を見てきましたが、今回は、まったく現状を知らないということを自覚しました。

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 パレスチナ取り巻く情勢があまりに厳しくて、希望を見いだせない中で「パレスチナに希望があるとしたら、それは私たち自身」と本書にありますが、岡先生の講演を聞いて、改めてそれを強く感じました。

 『テルアビブ・オン・ファイア』は、悲惨な場面は出てきません。すべてコメディタッチで描かれますが、その裏にある思いは、かの国の知識を持たない日本人には推し量りにくいと思いました。

 パレスチナ人たちは写真に写る時、あるいはユダヤ人兵士に対峙する時は、決して悲しい顔は見せないと書いてあります。心のうちは見せない、支配されない、挫けないという強い意志の表れです。

 そういう目でこの映画を見たらどう見えたか、例会後に感想批評を書こうと思います。

パレスチナの現

今回の岡先生の講演は、パレスチナの第2次世界大戦以後の現代史と現状について、そして映画『テルアビブ・オン・ファイア』に込められた意味、この二つを話されました。

1948年のイスラエル建国によって、歴史的パレスチナに住んでいたパレスチナ70万人が、故郷を追われて難民となりました。ナクバ(大破局)です。彼らは歴史的パレスチナ地域(現在のガザ、ヨルダン川西岸、イスラエルを含む)の内部や周辺諸国の難民キャンプに避難します。その後70年を経て難民は子や孫も含めると500万人になりました。

 難民となった彼らに何度もナクバが襲い掛かりました。イスラエル軍の攻撃、レバノンやヨルダンからも排除され、人権のない状態が続いています。

 1967年の第3中東戦争6日間戦争、6月戦争とも言う)により、パレスチナとされていた東エルサレムヨルダン川西岸、ガザ、シリアのゴラン高原、エジプトのシナイ半島(後に返還)がイスラエルに占領されました。それが50年も越えて続いています。

 これは第2次世界大戦後の国際社会では異常なことです。国連は非難決議し、イスラエル軍に撤退することを求めてきました。

 オスロ合意(1993年)によって、お互いにユダヤ国家パレスチナ国家を認める、と言う話し合いがされましたが、それ以後もイスラエルは軍事占領を続け、入植地は広げいきました。

2000年に第2インティファーダがあり、自爆テロが頻発して、それを理由に高さ8ⅿのコンクリート分離壁パレスチナ側に大きく食い込んで作られていきます。しかも交通の要所には検問所を置き、パレスチナ人の生活、社会経済活動を分断、阻害しています。

壁は国境に沿っているのではなく、入植地や重要な水源を取り込むようにしてくねくねと曲がっています。

残されたパレスチナ人の土地は耕作に適さない荒れ地になっています。

分離壁と検問のために、救急車も通れない、かつて車で10分で行けたところが2時間も要する、検問所で止め置かれた妊婦が出産する、そのような事態です。路上で並ばされて、身体チェックされる、それは著しく人権を侵害し、侮辱する行為です。

これは西岸住民がイスラエルエルサレムに入るのを制限するためで、この逆はフリーパスです。

 そして入植地を撤去したガザは、イスラエルによって完全封鎖されて窒息死させられようとしています。360㎢に約200万人という最悪の人口密度で、人の出入りや物資も規制されています。日用品、医療用品、エネルギー、建設資材も不足し、電力不足、水不足、下水処理もできない居住不能とされる状態です。

 失業率も異常に高く、ガザは国連やNPOなどの支援物資でかろうじて生きています。

 「自治区」と言うが実際は軍事力による占領と入植で、パレスチナ人の人権は奪われています。住民を代表する政治組織は西岸地区はファタハガザ地区ハマスと別れています。

映画では

主人公の名前はサラーム。脚本家見習いでちょっとぼんやりしている若者です。アラビア語で「平和」「平安」という意味ですが、「無気力な青年」とも見えます。

エルサレムに住んでいますが、エルサレムイスラエル化に無抵抗で、『オマルの壁』のような闘う青年ではありません。

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エルサレムに住む権利は与えられていて、IDを付与されイスラエルにも西岸地区にも行けます。しかし住居の改築、新築は許可が下りないという仕組みです。

映画ではサラームは検問所所長の圧力でテレビドラマの筋書きを変えます。それは「誰が≪物語≫を書くのか」を暗示しています。最初はうまくいきますが、最後にはつじつまが合わなくなり、追い詰められて、サラームは自分で考えざるを得なくなりました。

イスラエル

イスラエルアパルトヘイト国家で「ユダヤ人の国」としてアラブ系の人々を切捨てています。学校も別々にしながら、歴史教科書では、ユダヤ人にもアラブ人にもナクバを教えていません。

イスラエル民族浄化を貫徹しようとしています。土地を取り上げ、人権を抑圧してアラブ人を生きづらくして出ていくように仕向けています。

 考えたこと

パレスチナ悲惨な現状は、起点である1948年のナクバから現在までも続いているイスラエル国際法違反によるものです。ナチスホロコーストのように短期間での殺戮ではありませんが、「空間の扼殺」といわれるように、じんわりとしかも確実に、パレスチナ人が死滅するように生活環境、生活手段を破壊し、人間らしい生き方を望むことさえも奪い取っています。

国連は歴史的パレスチナの地に、イスラエルの建国を認めました。そしてその後のイスラエル戦争犯罪国際法違反の侵略、入植に対し、何度も非難決議し、破壊行為をやめる勧告も出しています。しかし何ら実効ある措置は取っていません。

米国の庇護のもとに、イスラエルは力を緩めることはありません。4年前のトランプ大統領の誕生は彼らに励ましました。2018イスラエル基本法に「ユダヤ人国家」を明記して、名実ともにアパルトヘイト国家であることを宣言しました。

国際社会は、何ら実効性のあるなく処罰を与えることが出来ず、また日本も含めて、きちんと実情を報道しないままになっています。

パレスチナの映画

パレスチナのドキュメンタリーはたくさんつくられていますが、劇映画では『太陽の男たち』『ガリレアの婚礼』『D.I.』『パラダイスナウ』『オマル」「歌声にのった少年』『ガザの美容院』があります。

逆にシオニズム映画の代表作はポール・ニューマン主演の『栄光への脱出』です。