2022年1月に読んだ本その2

1月の分を積み残していて、なかなか書けませんでしたが何とか形にできました。

古典落語・上方艶ばなし/藤本義一』『暗約領域・新宿鮫Ⅺ/大沢在昌』『世界1月号』の3冊です。

古典落語・上方艶ばなし/藤本義一

 露の五郎(現、五郎兵衛)の口演を聞いているように読みました。いわゆる下ネタですが、そんなに下品ではありません。24編が収録されています。演目を書いておきます。

『女護が島』『しつけぼぼ』『おさがり』『赤貝猫』『金箔屋』『建礼門院』『茶漬け間男』『風呂敷間男』『左甚五郎』『からくり医者』『お好み吸い物』『揚子江』『松茸』『故郷に錦』『紀州飛脚』『張形』『羽根つき丁稚』『忠臣蔵』『鞍馬の天狗』『逢びき』『反古染め』『猪飼野』『金玉茶屋』『下口』

川柳「弁慶と小町は馬鹿だ なあ嬶あ」は有名です。左甚五郎作の張形の威力、間男される間抜けな亭主が出てきます。物の大きさくらべは中国が凄まじい。

『暗約領域・新宿鮫Ⅺ/大沢在昌

 多分新宿鮫シリーズは全部読んでいるはずです。題名を見るとなんとなく記憶に残っています。娯楽ミステリーというか、松本清張のような社会性はあまり強くなく、やくざと中国マフィアなど外国系の犯罪組織が多く出てきます。

 謎を解くというよりも、主人公、鮫島のアンテナにかかった連中を、彼が執拗に追及する行動から、次々と事実を集めてきて関係をつないで真相を浮き彫りにする手法です。

 文体は読みやすく引き込まれるようにして、700頁もの大部を読み進めました。

 鮫島がS(情報屋)からの情報で、覚せい剤売人のアジトになっている違法民泊のマンションを鮫島が監視していると、監視している部屋と違う部屋で殺人が起きました。それが最初の事件です。

 殺された人間は身元不明です。部屋の借主、マンションの所有者へと聞き込みを広げていくと暴力団につながってきます。

 そして民泊の元締めが何者かに誘拐されるという事件へと発展します。死体の身元が分かり、北朝鮮関係組織、公安警察が絡み始め、そして中国マフィア等も出てきます。さらに鮫島の新たな相棒にも不審な点が出てきて・・・・。

 話がどんどん膨らんで、どこへ向かうか、と思います。北朝鮮内部の粛清が日本にも影響し、公安からの介入もあり、複雑ですが事件自体はそう大きなものではなく、収まりました。

 大沢在昌の腕はすごいと思います。多くの関係者を数珠つなぎに出し、これだけの登場人物を見事に整理して描きました。話も混線しません。わからなくなると読み返せば辻褄はあっています。

『世界1月号』

 特集とか関係なく、面白かった記事を書きます。

【〈座談会〉危急のメディア―何が問題か、どう変えるか/田島泰彦(元上智大学教授)工藤信一(信濃毎日新聞浮田 哲(羽衣国際大学)】

 三人が東京オリンピック、新型コロナ、自民党総裁選、総選挙について日本のメディアについて語っています。

・自民総裁選挙は膨大な報道を行い、それに比べて総選挙報道は薄かった。

・大阪吉村知事の露出は多かったが、検証、論議、追及がない。大阪圏では維新派支配的。

・オリンピックは全国紙の全てがスポンサーになった。オリンピック自体を批判が出来ないメディアは不信を強めた。

・アベスガの9年間で民主主義の基盤がガタガタにされた。メディアも委縮した。権力からの介入に団結して対峙できない。読売、産経が朝日を攻撃、毎日も及び腰。

・「信頼をどう取り戻すのか」では記者やジャーナリストの横のつながり、現場を踏み訓練を積んだプロのジャーナリストの仕事が求められる。

【《選挙結果分析》野党共闘は不発だったのか/菅原 琢(政治学者)】

 昨年末の総選挙、政権与党が大きく後退するのではと思われていたのが、自公の若干の後退、維新の躍進、野党共闘(立憲と共産)の後退となったことから、野党共闘を否定的に見る論調が権力者側から出されています。それを分析した記事です。

小選挙区では与党から、維新と野党共闘議席を奪った。比例区では野党共闘から与党と維新が議席を奪った。前回の希望の党の票が維新にいった形。

・共産候補の撤退、参入は与党候補の得票率を下げなかったが、野党共闘の成績向上につながった。

・維新は野党共闘を妨げてはいない。

野党共闘の課題は「比例区の結果に明確に表れたその基本的な得票率、支持率の低さ」であり「与党に代わる有力な選択肢」となれるかどうかである。

片山善博の「日本を診る」【146厚労省職員が国会議員の挨拶文を作成していたことの意味を問う/片山善博早稲田大学) 】

 国家公務員が与野党議員の挨拶原稿を書いていたことについて、厚労省事務次官の「公務員の仕事として」「おかしくなく」という見解に対して、片山さんは、こんな人が「次官であってはならない」と断じます。

 理由1=外部からの要請で業務以外をしてはならない。「職務専念」義務違反。

 理由2=立法と行政の緊張関係をそこなう。トップにはケジメと毅然とした姿勢が必要」

恒例の花見、2か所

 この3月末で仕事を辞めました。20才から働いて46年、1年9か月を民間企業、44年を神戸市役所で働きました。私の生き方、人生観は自治体労働者として働いたことで培われたと思っています。

 今から振り返ると46年は長いと思いますが、一年一年懸命に生きていたので、苦しくもありまた楽しくもありました。

 私の市役所人生を象徴的に現わす場所で、偶然ですが恒例となっている花見をしています。

土木の仕事

 4月3日は中央区宇治川沿いの公園での花見です。莚を広げる場所の途中に40年ほど前に担当した道路工事の現場があります。

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上に墓地が見えます

 高い石垣の上にある墓地の隣を道路拡幅しました。どんな具合に工事をするのか想像できなかったのですが、請け負った建設会社はブルドーザーを入れて、どんどん掘っていきました。

 なるほど、日本の土木技術はすばらしいと思いました。

 でも、その時は宇治川の桜は目に入りませんでした。ただ御影石の石垣が見事だと見ていました。

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そして花見をした仲間は、小さな飲み屋でこの10年の間に知り合った人々です。

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小雨が降りだしたので帰ってきてカラオケ大会です

仕事を越えて

 4月9日は垂水区泉が丘です。

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 ここは現役生活の最後にかかわった現場です。大規模な土木工事とは無縁の100万円以下の仕事ばかりをやっていました。でもその仕事一つ一つは、そこの住民のみなさん、地域を担当したコンサルタントと協力することでできたものです。

 だから仕事を辞めた後でも、花見に呼んでいただける付き合いです。これは公務員冥利に尽きると思っています。

 狭い路地ばかりの地域で、古い家を壊して「防災空地」を作る仕事でした。それは火事や災害時に少しでも安全になるようにと考えたものですが、地域のコミュニティを醸成する狙いもありました。

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 ここはそれを見事に実践していただいています。

 私の「卒業」を祝っていただきました。

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2022年2月に見た映画その2

 2月に見た映画の後半4本は、どれもなかなかの力作でした。

『クーリエ最高機密の運び屋』

 実話に基づく映画です。1962年のキューバ危機の回避に重要な役割を果たした「スパイ」の話です。

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 1953年にスターリンは死にます。その跡を継いだフルシチョフスターリン批判をしますが、米ソを中心に東西冷戦はいっそう厳しくなっていきます。

 1960年、世界核戦争の危機を感じ取ったソ連の政府高官ペンコフスキーは、それは何とか防ぎたいと考えます。ソ連の実情を知らせたら対立は緩和できると考え、国家機密を英米に流そうとします。

 その動きを察知した英国諜報機関は、機密情報を受け取ることを、ソ連など東欧諸国で商売をしている英国の商社マンのウィンに依頼しました。

 当時、米ソは軍拡競争だけでなく、宇宙開発等、科学技術の最先端の発達を競い合っていました。またスポーツや文化芸術の面でも東西の両陣営は争っていたように思います。

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 しかしソ連の国民生活の内情は貧しく、科学技術の本当の到達等は隠されていました。それを西側に知らせ、米国などが正確な情報をつかむことで無用な争いが起こらないように、核戦争にならないようにとペンコフスキーは考えていました。

 ウィンは最初いやいやでしたが、ペンコフスキーの人柄に触れて、彼の心情を知り、深い友情と信頼関係を持つまでに至った、と描きました。

 最後は二人ともスパイ容疑で捕まり、高官は処刑、セールスマンは長期の拘束を経て英国に帰ることが出来ました。

 ウィンは拷問を受けてもスパイだとは認めませんでした。わが身よりもペンコフスキーが処刑されるのを恐れていたのです。

 この映画を見て「スパイ像」が変わります。ペンコフスキーは何かの利益を得たいということではなく、ソ連国民や地球を破滅させる核戦争を防ぐことを考えて危ない橋を渡ったのです。

 ウィンも普通の会社員でありながら、拷問を受けても友情を裏切らない男でした。彼らに比べて、ソ連や英国の国に忠実な、普通の人々は卑劣な人間に見えました。 

『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』

 フランスのユダヤ人、パントマイムの神様、マルセル・マルソーの第2次世界大戦中の活躍を描く映画です。彼はドイツ占領下のフランスでレジスタンス活動していたことに基づいています。

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 ドイツに隣接する町、ストラスブールに住むマルセル・マルゲン(マルソーの本名)は、ナチスに親を殺され、ドイツから逃げてきたユダヤ人孤児123人の世話をしていました。

 ドイツがフランスを占領したことで、彼らが収容所に送られる危険があることから、国境を越えて密かにスイスに逃がすという話です。

 多数のレジスタンスやユダヤ人を殺し「リヨンの虐殺者」と言われたナチス司令官、クラウス・バルビーを、家族には異様にやさしく、敵には一転した残虐性で、その怖さを描きます。

 彼が異常なくらい自分の家族と子どもを愛する姿を描き、もう一方でレジスタンスを肉体的精神的に破壊する拷問を描きました。

 マルソーは、この時期は16歳~22歳で、パントマイムを志す役者の卵です。その芸を生かして失意と恐怖に落ち込んでいた子どもたちを慰めました。

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 バルビーと対比的です。

 全体的に緊迫感のある画像でした。

『スティルウォーター』

 表題は町の名前ですが、サスペンス映画のキーワードにもなります。

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 オクラホマ州スティルウォーターの街で暮らしていたビル(マット・デイモン)は、フランスのマルセイユにやってきます。留学していた娘アリソンが、レズビアンの恋人を殺したと、殺人罪で刑務所に収監されていて、すでに5年がたっています。娘の無実を信じるビルは、真犯人を探そうとします。でも彼はフランス語も満足に話せません。しかも、すぐ暴力に走る傾向があります。

 ビルは娘の無罪を信じて、娘が真犯人というアラブ系の若い男を捜そうと、必死に動きます。移民が多い地区に行って男を見つけますが逃げられました。

 4か月もマルセイユ逗留して探し続けました。するとサッカーの試合で偶然に男を見つけます。そしてアパートの地下室に監禁して自白を強要しました。

 ビルは事件の真実を知ります。

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 米国の田舎町からマルセイユに留学 娘はレズビアン、アラブ系だというのも現代のリアルさを感じさせました。

 マルセイユは、フランスの代表的な街で、きれいな街区のイメージを持っていましたが、移民が多いところは、やはり荒廃しているようです。

 サスペンスとしてもよく出来ているし、主人公ビルが、社会から落伍したような貧しい労働者であることも良かったです。

『汚れたミルク』

 前回45日に感想を書いています。

 

 

『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』の感想

市民映画劇場2月例会です。機関誌にこの映画の解説を書きましたが、もう一度見直して、感想も書きました。ちょっと長いですが読んでください。

※  ※  ※  ※  ※

ドイツのテレビ局は放送を取りやめたが、映画はつくられた

 カラチのスラム街で暮らす母親たちは、汚れた水でつくったミルクを赤ん坊に飲ませるという間違いを続けました。

 この映画の発端は一九九四年ですが、赤ん坊が脱水症状に陥っている映像は二〇一三年のものを使った、と言っています。

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 ネスレの強欲は明らかですが、パキスタン政府も酷いものです。貧しい階層を救済する、あるいは自覚を高める、社会基盤を整備する政治ではない、と悲観的になります。

 この映画を見て、多国籍企業ネスレの利益追求する商魂である「違法でなければ」儲かれば何でもありの企業倫理を批判するのは容易です。

 一方で、母親の「我が子の異常」に気づき、やめられなかった責任もあります。

 五〇年も前のことですが、公害問題で父と言い争ったことを思い出します。父は「危なかったらそこを離れろ」と言いました。公害企業と闘うのもいいが、子供や家族のことを考えるなら、すべてを投げ出しても逃げるべきだというのです。

 今なら「親はそうするか」と納得する部分もあります。

商業テレビの弱点

 映画の中では「映画は作れない」という結論ですが、工夫と勇気で『汚れたミルク』は作られました。製作者、監督や出演者の英断には拍手を送ります。

 アヤンがドイツに行ってネスレの所業を証言するテレビ番組はつぶれます。その結果、彼はパキスタンに帰れずカナダに難民として受け入れられました。帰れば「命が危ない」という判断でしょう。

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 なぜドイツのテレビ局はネスレの「犯罪」を放送しなかったのでしょう。アヤンがネスレを「恐喝」しているかのような録音があったとしても、ネスレの粉ミルクを汚水で溶かして飲んだ赤ん坊が病気になっているのは事実です。

 ドイツ人ジャーナリストが、ネスレ幹部にインタビューして「ネスレには責任はない」という彼らの言い分も撮っています。

 パキスタンの映像とネスレ幹部の映像を合わせて流せば、客観的事実と当事者の取材もしているので、アヤンの証言がなくとも多国籍大企業の「犯罪性」を知らしめることはできます。

 やはりネスレに遠慮したということでしょうか。ジャーナリストがテレビ局の幹部に「圧力に屈するのか」と怒鳴りますが、ドイツでもスポンサーに忖度することがあるのでしょう。

マス・メディアの影響

 テレビの影響力は強いと、つくづく思います。

 コロナ禍で感染予防や重症者対応など、公衆衛生、医療体制の強化充実が求められています。日本では自公政権のもとで国や自治体のその部門は大きく削減されてきました。

 大阪府・市では維新政治の元で公務労働の合理化と称して、全国トップクラスの削減で、医療崩壊があり、死亡率も高くなっています。また教育現場の荒廃もよく知られています。

 当然、市民からの批判が大きいはずですが、維新は府下の各種の選挙では優勢を保ち、昨年の総選挙で大きく支持を受けています。なぜか、そこにはテレビの悪影響があると私は思いました。

 事実を見るよりも、テレビが垂れ流す知事や市長の「これだけやっている」という演出を多くの有権者が信じる、という現象です。

 テレビは事実と違う現実を作り出します。

 ネスレについては、きれいなCMでよい企業イメージを作っています。「上等な」インスタントコーヒーで著名な「違いの分かる男」たちを出して瀟洒な感じです。

 でも孤狸庵先生が出ている時期から、ネスレは、労働条件の改善を要求するごく当たり前の労働組合に交渉拒否、弾圧、分裂攻撃をかけるなど不当労働行為を平気で行うブラック企業でした。この映画でもわかるように、会社の利益のために貧しい人々の命を顧みず、労働者の人権を踏みにじる最低の企業倫理です。

 旧来のマス・メディアである放送、新聞、出版などは「幻想」づくりに協力してきたと思います。

ごまめの歯ぎしりでも

 企画会議でアヤンの話を聞いた法務担当者は、ネスレからのスラップ裁判を恐れ、責任ある人々は製作中止の決定を下しました。

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 彼らは何を恐れたのか。ネスレが反社会的勢力との繋がりがある、脅迫や暴行などの違法行為を行ったと決めつけた表現は、確証がないとできません。

 そのあたりをぼやかして『汚れたミルク』は作られ、でもネスレの企業責任を問う映画として立派に作られています。

 しかしパキスタンでは上映されていません。ボリウッド映画界で人気の俳優たちが主演しているのですが、娯楽映画のように上映することは難しいようです。

 現在は、選挙によって政権を作っていますが、軍事政権の時代も長く、国民の生活や権利を守ることを優先させる政治ではないようです。現在でも上水道整備や教育が遅れている状況であり、「報道の自由度」も低いまま、多国籍企業の力も強いことがわかります。

 そんなことを言えば日本だって、国民生活よりも大企業を向いた政治で、米軍の傍若無人を許している、という現状です。冒頭で母親の責任に触れましたが、自己責任が強調されるし、福祉も自助が最優先の国です。

 こういう映画を上映、普及、鑑賞することで少しでも情勢を変えていきたいと思います。人間を無知のままにしてはいけない、そのことを強く再確認した映画です。

落語三昧

 喜楽館ができて以降、落語会に行く回数がぐっと増えました。上方の若手落語家も知るようになってきました。

 それまでは文化ホールが主催する東西名人選(小三治、福団治等)、若手の大倉寄席やKAVCシアターの落語ヴィレッジ(九雀、吉弥、文之助)朝日ホールの米朝一門会(米團治、南光等)で、年に3、4回でした。

 現役時代は出張で東京に行くと、なんとか時間を作って末広亭に行っていました。

今では喜楽館定席は月1以上、年4回のえびす寄席、そして市内のホール落語にもいくので、かなり回数は増えています。喜楽館「たにまち」にもなりました。

 2021年はコロナ禍で、喜楽館の一時閉館等があり落語会も減ってしていましたが、数えれば15回行っています。

 プロの落語家の数は江戸600人、上方200人と言われています。やはり東京の落語家の層が厚いのは否めません。上方落語四天王と言われた松鶴米朝春団治文枝の次を担うべき世代の小染、枝雀、吉朝、松葉(7代目松鶴)、6代目松喬と早逝したのが残念です。そんなに売れていませんでしたが福団治の一番弟子、福車も上手でしたが60前で亡くなっています。

好きな噺家、嫌いな噺家

 現在の私の贔屓は中堅どころでいうと7代目松喬、銀瓶、かい枝と若手で雀太、二乗、華紋に期待しています。女流では都、三扇と言ったところに好感がもてます。団姫(まるこ)の坊主頭には色気を感じます。

二葉がNHK新人賞を取りましたから、一度聞きたいと思います。3年ほど前に一度聞きましたが、その時は下手でした。

1、2度しか聞いていませんが、福丸、雀喜も面白と思います。

 逆に嫌いな落語家の筆頭が文珍です。「アベ桜を見る会」でアベの後ろに立つ得意そうな顔が忘れられません。「世相を鋭く切り取り笑いに変える唯一無二のセンス」という評価もあります。上手なコピーですが、彼のセンスは支配層に媚びる幇間のそれです。

 次に嫌いなのが3代目春蝶です。彼はネトウヨそのものの考え方で、高市早苗を支持していると公言しているそうですが、いかにもです。

 何年前か、ラジオのパーソナリティをしていた時に、地球温暖化は「フェイク」という主旨の話をしていました。ひどい無知だ思ったのは「北極は海なので、氷が解けても水面上昇はない」という言い分です。北極海の周囲の大陸にある氷も解けることに頭が回らないのです

 36日に米朝一門会が文化ホールであり、行きました。南光、塩鯛がさすがに面白く聞きました。ざこばも短い噺でしたが、貫禄がありました。前座の故枝雀の息子りょうばは、もう一つです。けいこ量が足りない感じでした。

 22年度も喜楽館の「たにまち」になりました。大阪の文楽劇場にも行こうと思っています。これから落語三昧とまではいかないけれども、上方落語を定期的に聞きに行きます。

 

2022年2月に見た映画

バルカン超特急』『雨の朝パリに死す』『鹿の王 ユナと約束の旅』『クーリエ最高機密の運び屋』『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』『スティルウォーター』『汚れたミルク』の7本です。24日にワクチンを打って、その週は映画を見ることはできず、予定より少ないです。

バルカン超特急

 戦前1938年の製作です。ヒッチコックが監督なので期待してみました。原作もあってミステリーついてはよくできていますが、ヒッチコック映画に期待するハラハラドキドキ感に乏しいと思いました。

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 第二次世界大戦の開戦直前の欧州を舞台にし、ちょっとそんな雰囲気を持っていました。

 結婚前に友人たちと旅行を楽しんだ女性が、東欧の小国(そんな感じ)から欧州大陸を横断する列車に乗って英国に帰ろうとしたところ、同じ列車で親しくなった老婦人が突然に行方不明になったことに気づきます。

 ところが同じコンパートメントにいた客たちは「そんな老婦人はいなかった」と証言しました。

 素人の女性が「そんなバカな」と、彼女にひかれている男と列車内を走り回ります。明快な推理というよりも、ちょっとドタバタ感がありました。

大がかりなスパイ合戦にまで発展させて、戦争の危機を感じさせる映画でした。

雨の朝パリに死す

 1956年の米国映画です。

 第2次世界大戦が終結した直後のパリで米国人の従軍記者チャールズは、パリ在住の米国人一家と知り合います。

 姉マリオンと約束をしたデートの日に現れたのは妹ヘレン(エリザベス・テーラー)でした。そしてチャールズとヘレンは結婚し、マリオンも別の男と結婚しました。

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 ヘレンとチャールズの結婚生活はあまり順調ではなく、子どもが生まれても、ヘレンは家庭に落ち着きません。そしてお互いに浮気に溺れます。

 雪の朝、家から締め出されたヘレンが死にます。チャールズはマリオンによって子どもと引き離されて、米国に帰ります。

 ストーリーを追ってもあまり意味のない、破滅的な男と女の物語です。彼と姉妹の悲劇的(喜劇的?)な物語です。

『鹿の王 ユナと約束の旅』

 本屋大賞をとったファンタジー小説を原作に、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』の作画監督の安藤雅史が監督とあったので、アニメですが少しだけ期待して見に行きました。でも全然だめという評価です。

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 超能力や魔力のある世界で、伝染病を研究、克服するという変な話です。タイトルは飛鹿(ピュイカ)という巨大な鹿に主人公が乗っているからです。彼らの一族は乳も飲みますし、おそらく肉も食べるでしょう。馬もいる世界なのに鹿の何がいいのか不明です。

 文明的には中世ヨーロッパのような架空の世界で、巨大な帝国オツルに支配された小さな王国アカファが舞台です。

 そして主役は、故郷を守るために戦い敗れて岩塩鉱山の奴隷された戦闘集団の首領ヴァンです。

 鉱山が山犬に襲われ全滅する中で、鎖を引きちぎって、そこで生き残っていた孤児ユナとどこへ行くのか旅を続けます。

 アカファは山と谷の国で豊かな穀倉地はありません。ピュイカは特有の生き物のようですが、どのような環境で育つのか、巨大な草食動物の生息地がみあたりません。

 巨大帝国の支配とそれに抗う地方の王国の闘いですが、アカファに何があるのか、オツルは何を得るために戦い殺しあうのかわからないのです。

 原作は違うかもしれませんが、映画は訳が分かりません。

2022年1月に読んだ本

売国真山仁』『松本清張を推理する/阿刀田高』『拾った接種券/桜沢ゆう』『孤高の相貌/丸山正樹』『古典落語・上方艶ばなし/藤本義一』『暗約領域・新宿鮫Ⅺ/大沢在昌』『世界1月号』7冊でした。とりあえず4冊の紹介です。

売国真山仁

 明治以後、日本はアジア諸国への軍事的侵略を隠すことなく膨張してきました。日清戦争1894年)日露戦争1904年)第1次世界大戦(191418年)で「勝利」して台湾、朝鮮半島南洋諸島を植民地支配し、そして満州事変(1931年)翌年の満州国建国は帝国主義の侵略行為です。

  その歴史的事実を言うと「売国奴」「非国民」と批判する人達がいます。しかし「従軍慰安婦」など他国民を蹂躙してきた歴史は忘れてはならない、と思っています。

 この本は、そういう彼らが使う「売国」ではない、戦後の日本にある、日本国民が生み出してきた利益、あるいは将来の日本にとって大事な知的財産等を「宗主国」米国に売り渡す「仕組み」があると描きました。

 日米安保条約やその地位協定などの批判する時に、私は売国的だといいます。それは国民生活よりも米軍の都合、利益を優先する条例、制度であるからです。国民生活を守る法制度を米軍に適用除外としています。

 戦後の日本は、このような軍事的にはもちろん政治経済的にも文化的にも米国に従属する面が多くありました。その一つが宇宙開発事業であるという小説です。

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 主人公は、一人は宇宙開発に係わる若手の女性研究者、もう一人は能力を買われて東京地検特捜部に引き上げられた検事です。

 二人の話が並行して進行し、最後に政界の黒幕の二重スパイ的な行為で結びつきます。

 この本は現実の日本の戦後政治を意識して、保守政治家と官僚、宇宙船研究、検察などが配置されて、それなりに面白みはありますが、矛盾の暴露が足りない感じでした。

 

松本清張を推理する/阿刀田高

 松本清張の作品も好きですが、彼の本、思想について評論、批評する本も好きです。彼の本をすべて読んでいるほどではないのですが、偉大な作家だと思っています。

 ですから私が評価している批評家、研究者等からどう評価されているのか気になります。11月は保阪康正『松本清張と昭和史』を読みました。

 阿刀田さんも好きな作家ですし、彼の本も結構読んでいます。これは阿刀田さんが朝日カルチャセンターの講座「松本清張を読む」の教本です。

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「ある『小倉日記』伝」「張り込み」「点と線」「無宿人別帳」「ゼロの焦点」「黒い画集」「日本の黒い霧」「砂の器」「絢爛たる流離」「陸行水行」「隠花の飾り」を題材に語っています。

 気になった論点は以下の通りです。

・探偵小説から推理小説へと変化を作り出した作家という評価。

・トリック重視から動機や犯罪の背景を重視した。動機を突き詰めれば人間ドラマになり社会の矛盾が描かれる。

・ミステリーにこだわったわけではない。「張り込み」は推理小説とは言えない。「点と線」ゼロの焦点」などは勉強して書いていった。

 なるほどと納得しました。

 

『拾った接種券/桜沢ゆう』

 拾ったコロナ接種券で他人に成りすましてワクチンを打ったところ、その副作用で失神してしまった男。母親が呼ばれて「偽物とばれる」と思ったが、平然と連れて帰られます。

 接種券の持ち主、水沢和音はFTMでトランス男性でした。しかも資産家の庶子の子で莫大な遺産を受け取る権利を持っていたのです。

 しかし祖父は遺言書に彼が「女でいること」を条件としていました。それにもかかわらず男性化手術をうけ、そして失踪していたのです。

 彼(彼女)の母親は、財産目当てで和音の代わりを探していました。その罠にはまった男は「女に戻る」性転換手術への道を歩まされます。

 莫大な財産が手に入ると思えば女になる選択もあるのかもしれない、女になりたいと思い込もう、いや男でいたい、そういう揺れがコミカルに描かれます。母親の洗脳で、いつしか女役に踏み込んでいきます。

 官能小説ではないので濡れ場シーンも少なく、それでいて欲得の心理描写も物足りない、中途半端な感じです。ライトノベルと言われるものかね。

 

『孤高の相貌/丸山正樹』

 丸山正樹さんの本を初めて読みました。組織に従わない「変わり者」の初老の刑事、何森稔が主人公の中編『二階の死体』『灰色でなく』『ロスト』が収録されています。ミステリーとしても力作ですが、障碍者や社会的弱者の視線が良いので、惹かれました。

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『二階の死体』

 車いすの娘と暮らす母親が二階で撲殺されます。誰が何の目的で殺したのか、それがわかりません。何森は物証を積みあげてとんでもない仮説をひねり出します。

『灰色でなく』

 供述弱者という性質があります。他人の言うがままに従い、それが自分の考えと思い込んでしまうような人です。警察の供述でも刑事の誘導に従い、それが本当にやったことと思い込んでしまう性質です。

 警察は事件のストーリーを描き、犯人を特定しますが、その時に都合の悪い証拠は隠します。

 何森の追及で、供述と物証の矛盾が明らかになります。

『ロスト』

 現金輸送車を襲って2億円を奪ったけれど捕まった男友田六郎、頭をうって「全生活史健忘」という記憶喪失となりますが刑務所に入ります。7年半の年期が明けて出所してきますが、記憶喪失はそのままで、現金のありかがわかりません。

 何森が担当となって、現金はどこへ行ったのか、記憶喪失は演技ではないか捜査が始まります。

 共犯と思われる逃げた男女二人が、友田に接触をします。それを手掛かりに事件の謎が動き出します。

 面白いけれども、情けある結末を持ってきました。

 これから丸山正樹さんを読もうと決めました。でも図書館にはあまり置いていません。