葬られた王朝 古代出雲の謎を解く」梅原猛 新潮社

 梅原先生のものはとても分かりやすくて、しかも独創的ですから面白く読みました。しかし私に古代史の素養がないもので何度も読み返して、結局、読み通すのに半年近くかかりました。
 この本は寝る前に読む本と決めて枕元において、10分、15分のわずかな時間をあててきました。少し読んで、次読むときはまた前に戻ってという感じです。
 大和王朝ができる前に日本列島には大きな出雲地方を中心に強大な出雲王朝があったという仮設を立てられました。古事記、日本書記、播磨国風土記に書かれている、出雲神話のスサノウやオオクニヌシはこの王朝の系譜であるということです。
 先生自身が40年前に書かれた「神々の流竄(るざん)」では「出雲神話は大和に伝わった神話を出雲に仮託したもの」という説を立てられましたが、その後、出雲地方に銅剣、銅鐸、銅矛がたくさん出土したことで考えを改めたという。
 この本は、古事記、日本書記にかかれてある「神話」と出雲周辺の遺跡を突き合わせることで、壮大な仮説を展開されている。そしてこの本を読んで鎌足不比等を始祖とする藤原一族が大きな力を持った「仕掛け」もなるほどと思った。
 古事記は、スサノウを開祖とする出雲王朝がアマテラスを開祖とするヤマト王朝に、オオクニヌシの時代に「国譲り」をした、と書いてある。二人の神は姉と弟でもある。朝鮮半島から来たという共通点だろう。
 スサノウ(「韓」の国から来た)のヤマタノオロチ退治は、越という国に支配されていた出雲の解放である。オオクニヌシはスクナヒコと協力して出雲を豊かにし、さらに彼は越を征服して大きな国にした。日本列島の1/3ぐらいを支配していたという。ヤマト当たりもその勢力圏である。
 その古事記や日本書記を読み解きながら、その仮説を裏付ける遺跡をチェックしている。
 さらに「神話」をあらわす、古事記、日本書記の意味をも明らかにしている。それは藤原不比等が政治的に天皇の陰に隠れて実質的に権力を握っていく姿が見えてくる。
 なるほどなあ、と感心した。