2月例会学習会「最近のアメリカ社会とその変化」大塚秀之(神戸市外大名誉教授)



 2月4日です。大塚先生は何度も学習会に来ていただいています。元は神戸市外国語大学に勤務されていて、定年退職後に5年ほど北海道にいっておられたから、久々の登場です。
 市民映画劇場ではアメリカ映画はそんなに多くありません。昨年は『千年の祈り』で、一昨年は『ブロードウェイ・ブロードウェイ』と『ジョニーは戦場へいった』ぐらいです。
 『フローズン・リバー』は現代アメリカの暗部、極貧といってもいい人々が主人公で、決して明るく楽しい映画ではありません。アメリカン・ドリームとはまったく縁のない世界です。成功する人、一代で数百億ドルの資産を作る人、豊かな中産階級の人々の話ではありません。
 楽しい恋愛はないけれど、社会の底辺に生きている人々の苦しい生活、それがために犯罪を犯すけれども、人生の岐路に立ったときに、彼らが心の健全性をもって毅然とした姿を描きます。なにか、そこにこそ希望がある映画です。
 そんな人々が生きるアメリカ社会のお話をしていただきました。2年前のオバマ大統領誕生、昨年の中間選挙民主党大敗、下院議員襲撃事件のキーワードになるものが、わかりました。
 日本もアメリカも世界最高の豊かな国でありながら、庶民から見れば明るい未来が見えない社会構造になっています。二つの国には共通性があります。それは「ルールなき市場原理社会」です。
 アメリカ社会は人種差別社会です。WASP(白人、アングロサクソンプロテスタント)が支配的社会階層で、元奴隷である黒人や徹底的に殲滅された先住民族、母国で働く場所もなくやってきたメキシコ系の人々が最下層に位置します。人口構成で見ると白人は3/4を占めて、次に多い黒人はその残りの半分13%です。ですから人種的に黒人のオバマが大統領になるには白人の中で多くの支持を得ないといけないということです。
 2008年の大統領選挙の投票分析によると、オバマは黒人の95%の支持を得、白人は43%でした。全体でオバマ53%マケイン45%です。53%という支持は、戦後の民主党候補の中ではジョンソン大統領に次ぐ高さです。ケネディクリントンを上回っています。
 なぜそうなったか。それは金融危機と恐慌が国民の多数に襲いかかったからです。サブプライムローンの破綻等、白人の貧困層や「豊かな」ブルーカラー労働者の生活危機が人々の意識を変えたと、先生は指摘します。
 先生も国民と同じくオバマに多少期待したといいます。しかし去年の中間選挙に見られるように、オバマは国民の期待にこたえられなかった。彼の経済政策は大企業やウォール街を助けたが、貧困層にまではとどかなった。経済ブレーンはブッシュと同じで、GEという大企業代表や新自由主義者たちです。ポール・クルーグマンノーベル経済学賞)も批判しています。
 そこをアメリカ国民は見た、と言うことでしょう。失業率が2009年以降9%を超えて改善されていない状態です。新聞の分析を読めば、共和党が勝ったというのではなく、オバマを生み出した人々が「選挙に行かなかった」という主旨が書いてありました。
 また民主党下院議員を狙った銃の乱射事件は、最下層の労働者であったようです。銃社会も是正できず、現在の経済情勢が改善されないために、右翼、保守の過激派(茶会など)が跳ね返った行動を起こし、その誤った方向が世論に支持されるような報道もあります。
 直近の不況だけではなく、アメリカの社会構造は80年代以降貧富の差が拡大してきました。大塚先生はさまざまな指標でそれを示しましたが、現在では、上位10%の人々が50%、さらに0.01%が6%の富を独占しているということです。
 そこには産業の空洞化と労働組合に対する攻撃があります。製造業の多国籍化は、例えばデトロイトのような自動車産業の重要な拠点は荒廃しています。
 戦後、アメリカは世界第1の国であることが誰にでもわかる位置になり、生産性の向上を労働者の賃金など労働条件の改善につなげます。そのときに力になったのが労働組合で、全米自動車労組ビッグスリーから賃金、健康保険、年金などかなりの水準を引き出しています。今になってそれがGMの経営負担になっている。
 資本側は、その後、徹底的に労働組合つぶしに走る。工場労働者自体の数も減らされるし、組合員も減らされる。製造業労働者は全労働者中1983年23%が2008年12%、組合員では、30%が11%になっている。それに比べると公務員は減っていないし、組織労働者の中の割合は増えている。
 世界最大の小売業ウォルマートは、その一族はアメリカ一の金持ちでありながら、最低の労働条件で労働者をこき使う、そして徹底した組合つぶしをやっています。労働組合が潰せないときには店を閉めるということまでやるというあこぎさです。
 今、アメリカの労働組合運動は厳しいでしょう。ヨーロッパと違って、法律的に労働者は保護されていないようです。企業の「雇用の自由」が原則で、労働時間の規制もありません。反共体制派であっても労働者の団結と戦闘力だけが頼りでしたが、大資本の分断策にやられているのが現状でしょう。
 学習会のあと、いつものように居酒屋で盛り上がりました。その時に、大塚先生と「映画で見るアメリ近現代史」という数回にわたる学習会の話をしました。面白そうです。来年度の企画にしてみたいな、と考えています。
 『フローズン・リバー』18日19日です。是非見てください。機関誌の「背景」は私が書いています。
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