『格差国家アメリカ』大塚秀之

 大塚先生に例会学習会の講師をお願いすることにして、調べていると最近の著書がわかって、早速読みました。これを読んで書いていたら、機関誌の「背景」の中にアメリカの貧困をリアルに書けた、と思います。
 主人公レイが1ドルショップで働いていますが、彼女はパートでしかも出勤する日も限られていて、非常に低収入です。どの程度かはわかりませんが、映画ではトレイラーハウスにしか住めず、レンタルテレビももっていかれそうになるわけですから、日本の生活保護水準以下ということでしょう。
[総説 帝国アメリカの内幕]
 アメリカ(=世界)で一番の金持ちは、ビル・ゲイツ(430億ドル)ですが、一家ではおそらくウォルマート創立者の遺産を受けた一家でしょう。188億ドルかける5人ですから倍以上です。
[第1章 ウォルマート―超過搾取と収奪の帝国]
 世界一の小売業ウォルマートは、売上高2850億ドル(2005年)、15カ国、国内外の店舗6000以上、180万人の従業員です。創業は1962年に人口6000人のアーカーソン州ロジャースにディスカウントストアーを開いたことに始まり、「低い仕入れ価格と低い労働コストによってはじめて可能となった低価格戦略」によって経営を拡大しています。
 低賃金と労働組合否認、不当労働行為の乱発で大もうけをしています。薄利多売の調達先と市場を世界各地に求め「グローバリゼイションの中心的推進軸の一つ」となっています。
 しかしひどいです。進出した地域の同業者を価格競争で廃業に追い込み、それでも儲からないとなれば平気で撤退する「買い物難民」を生み出しています。その競争力は他社に比べて20%低い労働コストです。
労働者が労働組合を作ろうとすれば、切り崩しをするし、それでも労働組合を作ると店舗をたたむということまでします。
 それが中国に進出すると、労働組合を認めざるを得ないという変化もあります。
[第2章 貧しいアメリカ―ハリケーンカトリーナ」が明るみにした貧困と人種]
 2005年8月末、ハリケーンカトリーナ」はニューオーリンズを中心に貧困層を直撃しました。そして「この国の貧困と人種は分かちがたく結びついている」というように、黒人が大きな被害を受けました。ニューオーリンズの黒人は67%で全米平均の13%から格段に高く、大被災地の住民は白人18%、黒人76%となっています。それは偶然そうではなく、黒人は被害を受けやすい地域に住んでいるということです。
[第3章 アメリカ型企業社会の破綻―市場原理主義の行く着くところ」
 アメリカは医療費も市場原理です。一部の財界、経済学者、マスコミが持ち上げる、その市場原理がいかに「効果的」かよくあらわしています。日本は国民皆保険(だが非常にレベルは低い)だが、比べると、一人当たりの医療費は倍以上であるが、平均寿命は低く、新生児の死亡は3倍となっています。
 アメリカの社会保障は、企業に頼っていますが、その多くは労働組合の力で、組合員と非組合員での加入割合を見ると、退職年(85%、46%)、医療保険(83%、49%)となっています。そして労働組合は組織率を低下させ弱体化しています。
[第4章 交錯するアメリカの光と影―居住地の人種的分裂][第5章 ブラウン判決から50年]
[第6章 司馬遼太郎アメリカ]
 これは司馬の「アメリカ素描」という紀行本を評しています。大塚先生は、事実誤認の多いこの本を、専門家として素人のアメリカ論に目くじらを立てることはない、と思っていた。しかし名だたる研究者が「アメリカ論の古典中の古典」と激賞するから論じたという、短い文章です。
 司馬の「街道を行く」は私もよく読みました。彼の薀蓄はとても面白かったのです。今はそれらの本がどこへ行ったのかはわかりませんが、家の本箱にあるはずです。京都の嵐山にある松尾神社が別名大避神社といって酒の神を祭っていて、朝鮮半島とつながっていく様な話を覚えています。
 彼はアメリカを「自由と平等の国」と本気で思っていたようです。それは「アメリカ素描」というかなり分厚い本を読まずともわかります。先生の引用だけではなく、どこを読んでも、この国の本質に迫るところがないからです。
 「フローズン・リバー」の世界を見なくて、ハリウッド映画の世界がアメリカだと思えば、そうなるでしょう。
 しかし、司馬の世界観がこの程度であるとするならば、単に文章の上手な作家であり、とても「司馬史観」など信頼することはできません。
 
[第7章 アメリカにおける自由と平等]