「インターセックス」帚木蓬生 集英社

 分厚さは3cm、450頁を超える大著ですが、すばらしい筆力によってぐいぐい引っ張られるように短期間で読みました。
 ミステリーの形で、謎解きの面もあり、そういうことでも面白い小説ですが、それ以上にインターセックスという、「通常」の男と女の枠にはまらない、その間に存在する性を持つ人間をきちんと描き、それを通じて人間の存在、基本的人権、医療の役割、生命について、鋭いう問題提起をしています。
 帚木蓬生さんの本は「三度の海峡」「受精」に続く3度目ですが、これが一番すごいと思います。それはやはりインターセックスを取り上げ、科学的医療的知識に裏付けられた(ほとんど知識を持たないから教えられることばかりで、実は真偽のほどはわからないが)、彼らの存在感と医療的「治療」への批判は、すばらしいと思います。
 インターセックスは、半陰陽、両性具有を含む「通常」の男女の分類にはまらない性的な存在です。遺伝子と性器の外見が違うものや、両方を持つもの、といういわば肉体的な問題です。意識と生物的肉体が一致しない性同一障害とは違うようです。
 真性の半陰陽の出生の割合が10万人に一人ですが、広義の「性器のあいまいな新生児」は100人に一人半という多さです。自分の子どもの頃の性器に関する関心の高さ(大きさ、痴毛の生える時期といった些細なこと)から類推すると、本人にとって大変な苦痛であり、親も同様の苦しみを持ったでしょう。
 しかも人間社会として、その存在を認めない、否定的存在として扱われてきました。ここに書かれているように、それはこれから改まっていくでしょう。人間は生まれたときから、すべて人間として尊重されるという認識は合意されていると思います。
 この小説では、そこまでははっきりとした立場で書かれています。そして胎児については、再生医療や遺伝子操作、人工授精などの医学的到達と社会的に認識の乖離を指摘していますが、まだどう取り扱うべきかは、論議が深まっていない、不明のような感じがします。
 また彼の小説を読んで行こうと思います。