2021年1月の読み終えた本(その2)

後半は4冊です。 

『悪意の迷路/日本推理作家協会編』

2013年~15年に発表された短編集から選出された15人のアンソロジーです。「願わない少女/芦沢央」「ドレスと留袖/歌野晶午」「不適切な排除/大沢在昌」「うれひは青し 空よりも/大山誠一郎」「憂慮する令嬢の事件/北原尚彦」「シャルロットの友達/近藤史恵」「水戸黄門謎の乙姫御殿/月村了衛」「パズル韜晦(とうかい)西澤保彦」「魔法使いと死者からの伝言/東川篤哉」「潜入捜査/藤田宜永」「屋根裏の同居者/三津田信三」「優しい人/湊かなえ」「永遠のマフラー/森村誠一」「背負う者/柚月裕子」「綱渡りの成功例/米澤穂信

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 15人のうち、これまでに読んだといえる作家は大沢在昌森村誠一藤田宜永だけです。彼らの文体はなじんでいますが、他は読みにくい人もありました。さすが一流の作家ですからアイデアなど面白い作品ばかりです。でも好き嫌いはあります。

 テーマや登場人物の人物設定に、しっくりこない、受け入れがたいものがあります。

「優しい人/湊かなえ」よっぽど嫌な人でないと断らない「優しい」女性が、最後に殺人をするという話。優しさが最後に暴発した、ということですが、何か違う感じがしました。

「背負う者/柚月裕子」は、母子家庭の少女がホテルに行った男の財布から10万円を抜いた事件。彼女は何も語ろうとしないが、担当した研修中の新米調査官が調べて、妹の治療代であることを突き止め、同時に母親のこと、親戚の状況なども明らかにして、彼女を家族から切り離すことが必要と判断する話。なんだろう、ごく当たり前の展開と結果です。 

「綱渡りの成功例/米澤穂信」は、土砂崩れで家が数軒流されて、唯一助かった老夫婦の災害時の秘密を、フリーの記者が気づくという話。それは隣の家の冷蔵庫の牛乳を盗んだことですが、それの葛藤をミステリーとして書くかと言う感覚です。

  この3人は色々な賞を取っているので、世間の評価は高い人たちです。でも私はだめです。

 15人の中で、次ぎに読もう思ったのは三津田信三です。「屋根裏の同居人」と言うタイトルの通り、江戸川乱歩のオマージュがあります。その短編集もあるようです。

『リバース/相場英雄』

 些細な老女の万引き事件から、世界的企業が絡む汚職事件へと捜査の手が伸びたというミステリーです。福島原発事故に絡む巨悪の暗躍を描き、あるかもしれないと思わせるだけで、社会への警鐘になります。

 警視庁捜査2課の面々が主人公で、前作『トラップ』の後、西澤、清野が所轄に飛ばされます。彼らはそれぞれで活躍しますが、その事件がつながり、話がどんどん広がっていきます。

 万引きで捕まった中流階級の夫人から、福島の放射能汚染をネタにした「原野商法」を引っ張り出します。年金基金汚職を見つけ、さらに補償金目当ての詐欺があり、そこから殺人事件が発生します。そこから世界的な企業が絡む原発廃炉をネタにした汚職があることを突き止めます。

 比較的短い長編ミステリーですから、ちょっとテンポが良すぎて、数兆円の除染、廃炉事業にたかる世界規模の企業、商社の描き込みが足らない感じです。さらに2課の課長が癌で死ぬという設定まで入れますから、ちょっと詰め込みすぎですね。でも福島の現状を細かく描写する等、きっちりと書いています。

『世界1月号』

特集は①「自治のある社会へ」②「ポスト・トランプの課題」です。創刊75年を記念しての谷川俊太郎の詩『少年と世界』もありました。

 ①は一つ目「幸福を掲げた自治の実践―岩手県、震災からの10年/達増拓也岩手県知事)五十嵐敬喜(法政大学名誉教授)」の対談です。「創造復興」に言及して「元に戻す」復旧ではなく「未来に追いつく復興」を強調しています。首長の気持ちと思いました。

 二つ目「瀬戸際の地方自治―機とされる参事弁城型の制度改革/岡田知弘」は、コロナ禍の地方自治体の問題と「自治体戦略2040構想」批判です。

 自公政権自治体への介入は、一言でいうと「国に従属する『地方行政サービス体』にする」ということです。

 コロナ禍のもとで、国も自治体も、さらにマスメディアも公衆衛生と医療体制を充実させる必要があるといわないことに、私は不信感を持っています。パンデミックがコロナで終わるわけではありません。西欧諸国に比べる医療機関は圧倒的に民間が多いのが日本の特徴で、医療崩壊という事態はそのためです。

 久元神戸市長が月刊「地方税12月号」に書いた「withコロナ時代の大都市経営」でも、市政の根幹と公衆衛生、医療の関係には触れません。

 片山善博の「日本を診る」は、大阪市廃止住民投票での公明党を厳しく批判しました。「自党の国会議員のポストを失うまいとして」「むき出しの打算を見せつけられた」と書いています。

『淫らなお仕置きはいかが/館淳一

「白衣の女教師」「真夏の夜の下着」「セクハラ・カンパニー」「鞭、セーラー服そして少年」「ミッドナイト・ブルー」「神よわが閨房を覗くな」「春愁エロティカ」官能小説短編7つ。館淳一さんは好きな作家です。SM的要素が高いのですが、非人間的ではなく愛情を感じさせます。セックスですから本来はそういう関係がないとできません。

 この中で異色なのは「ミッドナイト・ブルー」です。これはスケコマシの罠にはまった人妻が主人公ですが、二人がたまたま二人の殺し屋の殺人現場の出くわして、ハードボイルドなシーンがあって、彼女は3人を殺して、何食わぬ顔で日常生活に戻る、という話です。