「千日紅の恋人」帚木蓬生

 「ははきぎほうせい」と読みます。知っている人は大勢いると思いますが、知らない人は知らない、というか、この人の小説はとっつきが悪いと思います。大長編小説だがらです。
 かく言う私が、友人に薦められてもなかなか読めませんでした。最初に読んだのが「三たびの海峡」です。
 植民地時代に強制連行された朝鮮人が主人公です。最初は強制連行、二度目が脱出の逃避行、そして三度目は、戦後に成功した実業家としてです。
 それからエンブリオ」「インターセックス」「受精」を読んでいます。読めば面白いとわかっているのです。
 帚木蓬生さんは現役の精神科医で、主に医療とか生命をテーマにかかれています。1年に1作というペースみたいですが、ものすごい想像力です。最新作は「軍医たちの黙示録」です
 今日「千日紅の恋人」を読みあげて、それをここに書こうとしたのは、これが今までの作風とまったくちがうからです。今まではテーマもそうですが、登場する人たちも謎を持ち、展開もなかなか見えにくいミステリー仕立てです。
 ところがこれは、母親の持つ安アパートの管理をする2度も結婚に失敗(一度目は死に別れ、2度目は生き別れ)した女性が主人公で、彼女のささやかな日常、母親とかアパートの住民との交流を描き、最後はとても気持ちのいい青年と結婚するという話です。
 本当に平凡な話で、帚木蓬生さんの小説とは思えません。でもそこがとても良かったので、あえて紹介しました。
 騙されたと思って、一度分厚い、彼の小説を読んでみてください。