『月島慕情』『おどろきの中国』『「アベノミクス」の陥穽』『人類哲学序説』『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたか』

 本は毎週1冊程度読んでいるつもりでいましたが、いざ紹介する本を書こうと思うと、それほど読んでいないのです。買ってツンドクが多い、図書館から借りて途中まで読んで、というのも多い、月刊誌「経済」と「世界」を読むだけで手が一杯という状況です。
 デモまあ、お薦め4冊を紹介します。まずは『月島慕情』浅田次郎さんです。これまで彼の小説はあまり読んでいません。ペンクラブ主催の対談を聞きましたが、高倉健主演の映画『鉄道員(ぽっぽや)』の原作者の印象が強いのです。ちょっと甘い人情が前に出ている小説、歴史観も違うのかなと思っていました。でもペンクラブ会長として、素晴らしい見識を示しています。
 雑誌「Will」(右翼系ですが、7月号で西村真吾に好きなように書かせていますから、かなり酷い)に「新しいこの国のかたち」という対談記事に出ていました。天皇や日本の「伝統的」家族観、文化的価値観は、そちらの傾向です。でも君が代や日の丸には賛同しても、それを強制することには反対と言い切っています。だから橋下市政に抗議文を出しています。
 『月島慕情』は短編集で、人情話といってしまえばそれまでですが、それが突き抜けるような感じです。標題の「月島慕情」は吉原の太夫が惚れた男から身請けされるという「夢のような」話から、あえて自分から、地獄のような道を選ぶという話です。「あたし、あんたのおかげで、やっとこさ人間になれたよ。豚でも狐でもない人間になることができた」と主人公に言わせます。
 人はここまでなれるのか、と思います。
 山本周五郎に似ているといえば、そうかもしれませんが、彼よりも少し悲惨な状況に主人公を置いていますね。
 『おどろきの中国』は橋本大三郎×大沢真幸×宮台真司の鼎談で、中国に対する歴史的認識、全体像の理解を深めてくれました。
「日本人を含む中国の外の者には、中国という社会がわからない」という前提で、高名な社会学者達が、中国の過去と現代、そして日本との関係を以下のテーマで語り合っています。
第1部「中国とはそもそも何か」、第2部「近代中国と毛沢東の謎」、第3部「日中の歴史問題をどう考えるか」、第4部「中国のいま・日本のこれから」
 現在、中国の人口は13億人です。人類の5人に一人は中国人です。それほどの人口を抱える一つの国(2200年前の秦の始皇帝統一国家)を日本とか、フランスと比べるべきではなく、EUと比べるという提案がありました。そこにある統一性を考えるというものです。「政治的統一」という概念が提示されます。
 中国やイスラム世界、インドの近代化が遅れた理由、その中で日本が早かった理由を、「根本テキスト」で説明しています。すなわち近代化とは西洋化であって、それを簡単に受け入れた日本には「根本テキスト」がなかったといいます。近代化に向けて、中国共産党毛沢東が語られます。そこには「指導部が正しい」というドグマがあるということです。
 元々は「中国、朝鮮、日本」の順番であるということを、現在の日本人には納得できない。私は、そこが重要だと思います。現在の問題は、そこに原因があります。あるいは私は「歴史的に中国は侵略しない」と思っているわけですが、それを言うと、多くの人から奇異な目で見られます。
 第3部読みながら、日本と中国の歴史問題を考えると、中国自体がこの問題をどのように考えているのか、良くわからないけれども、日本の状況は体験的にわかります。少なくとも日本人は自分が何をしたかをよくわかっていない(それは私も含めて不十分)し、わかるように努力しているかといえば、例えば中学高校の教科書の記載は不十分と思います。
 だから形式的には謝っているし、ある部分は心から謝っているけれども、謝りきれないと思います。
 その上で「東京裁判図式」が優れていることを、この本を読んで改めて思いました。それは「すべてA級戦犯のせい」とすることです。戦後、ポツダム宣言を無条件で受け入れて再出発をし、国際社会に受け入れてもらった、出発点はそこだと思います。
 歴史的な知識に乏しくとも、せめてそこを我々はよく理解するべきだと、それが重要だと思います。
 第4部で、中国の民主化のことが語られます。社会主義市場経済をどのように評価するべきか、その行き着く先はどうなるか、ですが、一つのキーワードは経済成長が止まったときに、いまの共産党1党独裁体制がもつのか、ではないかと思います。

『「アベノミクス」の陥穽』友寄英隆は、アベノミクスを簡潔にわかりやすく書かれたブックレットです。参議院選挙の最中ですが、自民党の優勢は動かないような選挙情勢です。それはこのアベノミクスによって日本経済が立ち直るかのように、国民の多くが思っているからでしょう。(あるいはこれにすがるしかないと思っている)
 株が値上がりしたり、円安になって儲かった人、企業もいることから、自民党系列は大宣伝をしています。でも週刊現代では「日本人への警告」「日本経済、7月におきること」など、否定的な特集が組まれたりして、その正体は徐々に明らかにされています。
 私には友寄さんの話がわかりやすいので、この本を紹介しておきます。ちなみにこれは2013年3月11日発行です。
 序章では「デフレ現象」が解説されます。第Ⅰ章「『アベノミクス』では、デフレ・不況から抜け出せない」は、アベノミクスの特徴、全体像です。第Ⅱ章「デフレ・不況の真の原因を探る」は、現状認識について、アベノミクスと著者の認識と対比します。第Ⅲ章「デフレ・不況から脱却するための処方箋」は、現状の「デフレ・不況」に対する処方箋の展開です。補論「『デフレ』の定義 日銀の『量的緩和政策』などについて」は、アベノミクスを進める側の言説に対する解説と批判です。
 アベノミクスは3つの矢といわれていますが、社会保障制度見直しと消費税増税が第4、第5の矢が規定路線としてあり、それらを含めた全体像を見るという指摘が、重要です。

『人類哲学の序説』梅原猛は、「人間はどう生きるべきか」=哲学を、近現代を作ってきた、これまでの西洋哲学を超えて、人類哲学へ歩むべきだと語ります。それは[3.11]を目の当たりにして、機械文明を作り上げた人間中心の合理的な西洋哲学の限界を感じ取り、「書くことを決意した」と述べています。
 これまでの50年の研究成果をもって、その上に、さらに西洋哲学を研究して「本論」を書く、だから本書が「序説」だといいます。
 これまで研究してきた西洋哲学、デカルトニーチェハイデッガーの限界を明示して、
(続く)

『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたか』 本書は著者の開沼博修士論文が下敷きになっていると聞いたが、たいしたものだと思う。380頁の大部であるが、しっかりとした取材と文献の読み込みからかかれたものと思う。多少退屈なところ、遅々として進まない論理展開はあるけれども、中央と地方の関係についての、問題提起だと思う。