「極点社会回避のための処方箋」増田寛也(元総務大臣)

ちょっと残念でした。
10月22日神戸芸術センターで、標記の講演を聞きました。時間が少ないと言うこともありましたが、もう少し突っ込んだ議論の展開があるかと思いました。講演の内容は、人口減少がはっきりわかる現段階のさまざまなデータの分析によって、日本にとって「現状は危機的である」と言う指摘をしただけです。とても処方箋までいきません。
それどころか、ここにいたる危機の要因に言及することも回避しました。増田さんは高級官僚、知事、総務大臣と登ってきて、現在東大の客員教授ですが、そのしがらみにからみ取られてか、学者として、真摯な問題追及はしないのか、と思います。
同じような経歴を持つ片山善博さんとは、自民党政権民主党政権と言う立場、考え方も違いますが、それ以上の開きを感じました。
データからの現状分析
レジュメの表紙に主張の要約があるので話は非常にわかりやすい。「人口減少の要因は20〜30歳の若年女性の減少と地方から大都市圏(特に東京圏)への若者の流出の2点」で、だから「少子化対策と東京一極集中対策を同時に行う必要がある」のです。
であるならば、まず、なぜそうなったのか、というのが聞きたいと思いました。が、その答えはありません。
資料のデータでは、自治体の現状がかなり詳しく載っています。そして若年女性人口が5割以下になると推計する自治体を「消滅可能性都市」とかなり刺激的な言葉を使っています。
特殊合計出生率が1970年代2.14から2005年に最低1.26まで低下し、そして現在1.43にちょっと回復したが、このままでは事態になります。仮に出生率が1.8にまで回復しても、2090年には人口が8100万人になって、なおかつ減り続けます。
早急に2.1まであげないと安定しないと言います。その通りだと思います。大変な事態を招きます。
その要因は
出産の現状は非婚と晩婚化であり、東京の出生率は1.13で極端に低く、沖縄が1.94と一番高くなっています。なぜそうなのか。
東京は子育ての環境が非常に悪く、沖縄は良いということですが、県民取得を見ると、東京が一番高く、沖縄は一番低くなっています。(レジュメには載っていませんが、それは周知の事実です)
なぜ東京は低いのか。レジュメにはありませんが、講演では住環境問題、長時間労働、遠距離通勤に触れられています。沖縄は「地域が子育てをする」とも言われました。
あるいは東京一極集中する社会増減の表もあります。戦後、地方から3大都市圏に人口移動が大きくなり、70年代後半に一度納まりますが、1980年代
からは東京一極が増え続けています。
レジュメの最後に「過去の国家戦略・国土開発計画」が載っています。経済対策や全総です。それらはバランスの取れた国土開発、地方の経済振興をめざしていましたが、それが失敗したと言うことです。
財界の経済戦略、大企業の営利活動にほとんど規制をかけなかったから、こういう都市構造を作ったと思います。
私は食物自給率の著しい低下もその象徴であると思います。
処方箋とは
増田さんは、人口が減少する要因、東京に一極集中する要因は、じつは分かっています。「7 人口減少社会への対応」というところで、こういうことをする必要があると書いています。
①若者が家庭を持ちやすい環境づくりのため、雇用・収入の安定、子育て支援に取り組む。また、男性の育児参画を促進し、長時間労働を是正する。
②必要な費用は「高齢世代から次世代への支援」の方針の下、高齢者対策の見直しにより捻出する。
③東京一極集中に歯止め。地域資源を活かした産業を創出し、生まれ育ったふるさとで家庭を持ち、生涯をすごせる社会を実現する。
残念ながら、今の政治との関係でどうするのかは触れられませんでしたが、何を言っているのかは、誰が見ても一目瞭然です。
①は安定的な就労です。ワーキングプア派遣労働者を増やす、安倍政権の労働政策への批判です。
②は高齢者福祉を切り下げて子育てに回せということでしょうが、無年金老人が増える状況ではそうもいかないと思います。金持ち老人から若者へお金が回るようにすれば良いので、資産課税の強化、相続税の強化をそればいいのです。
③地域の資源とは何か、田舎の産業は1次産業です。色々と工夫はいるでしょうが、農業振興が基本で、農産物の自由化を狙うTPPはだめと言うことでしょう。
政治家ではなく学者でありながら、なぜ、はっきりとものを言わないのか、それは御用学者であるからだと思います。