『ニュースの真相』について

この映画2月に市民映画劇場で上映する際は機関誌に解説を描きました。そして5月の機関誌に感想を書きました。さらに西神中央9条の会のHP6月号に投稿しました。
それぞれ、少しずつ切り口が違います。実話に基づいていますから、現実にあるたくさんの矛盾や課題を反映しています。
以下に、機関誌投稿文を乗せます。
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「陰謀の真相」 
 この映画の核である「ラザー・ゲート事件」は仕掛けられた罠です。世論やマス・メディアの動きを見通した巧みな陰謀だと思います。
 「伝説のアンカーマン」であるダン・ラザー、彼は権力を監視するジャーナリストですが、少なくとも、彼の信用失墜を狙っていたと言えます。
 陰謀団は「60ミニッツ」がブッシュ(息子)大統領の軍歴を調査していることを知り、真実を書いたメモを作成して、それを疑似餌としました。原本ではなくコピーしたものを、発信元がわからないようにし、民主党支持の州軍の老いた退役軍人に渡しました。
 彼がそのコピーをどう使うかは、ダン・ラザーのファンであるとか、目立ちたがり屋であるとかを見越して、予想していたと思います。
 そしてあとは映画の通り、放送後にインターネットを使って「偽物」と炎上させました。
ここからが難しいところです。世論の関心が「メモが本物か偽物か」に流れればよいが、他のテレビや新聞が「大統領の軍歴」に焦点をあわせて、調査を始めるとブッシュ陣営は危機に陥ります。
 この陰謀は、そのリスクを冒しての「ギャンブル」ではなかったか、と思います。映画の冒頭で、大統領選挙間近の世論調査で、現職でありながらブッシュ(息子)大統領苦戦というニュースが流されています。保守派は危機感を持っていました。
 米国のマス・メディアの大多数は、陰謀団が見越した通り堕落していました。彼らは大統領に関心が向かず、嘘八百のブログ情報に追従してメモの「真贋」を騒ぎ立て「60ミニッツ」叩きに加担します。CBSの上層部もメイプルたちの裏付け調査を重要視しません。
 この騒動は有権者の目から「大統領の疑惑」を見事に消しました。ブッシュ大統領は再選を果たし、陰謀は大成功です。
 ブッシュ派である親会社バイアコムからの圧力も読み込み済みであったでしょう。そして「本物と実証されないメモ」を使って放送したダン・ラザーやメイプルに「誤報」という汚名を着せて幕が引かれました。
 日本にも陰謀は多くあります。最も手軽なものは、重要法案の強行採決の日には必ずと言っていいほど起きる、猫だましのような芸能人の事件です。
 しかし現在では、この陰謀のような手の込んだことをしなくとも、権力者が堂々と嘘を吐き続ければ、メディアは無批判に報道し、国民はいつしか信じ込むような水準に陥っています。
 私は『ニュースの真相』を評価しない映画ジャーナリズムにも危機を持っています。