2019年9月に見た映画

 

9月に見たのは『夜の素顔』『荒野の誓い』『父と暮らせば』『米軍が最も恐れた男亀次郎の不屈の生涯』『ドッグマン』『火口の二人』『30年後の同窓会』の7本です。『父と暮らせば』は映画館ではなく医療生協西神支部で上映したものです。

 9月は稲刈があって、休日出勤もあり、月末には3泊4日で駒ヶ根市にもいきましたから、映画を見る時間がなかなか取れませんでした。

『夜の素顔』

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京マチ子主演、新藤兼人脚本、吉村公三郎監督(1958年)の古い邦画です。何の地位も財産も持たない女が戦中、戦後を生き抜き、女の武器を使って日本舞踊界の一時代をつくった、という映画です。

戦時中は南方戦線の慰問舞台の芸人、戦後は混乱の時代に赤線から這い上がり、たくましく生きる女たちが描かれます。新しい舞踊を打ち立てようと色と欲を絡めながら奮闘する主人公を京マチ子が演じますが、哀しい女の面も見せます。

彼女は、舞踊の世界で名声、地位、さらには財産も得よう、そのためには利用できるものは利用し、無用となれば切り捨てるという生き方を選びます。そのために周囲との軋轢も生み出します。

哀れな結末が用意されていますが、彼女は何を得たのか、殺伐としたものが残ります。脚本新藤兼人の狙いはなんだったのか、戦後10年を経た時期に、よりよい人生をめざす人々に受け入れられた映画であったのか、ちょっとわかりません。

『荒野の誓い』

米国が先住民族をほぼ制圧し終わった19世紀末の西部劇映画。先住民インディアンを殺しまくったインディアン戦争の英雄、騎兵隊の隊長が、宿敵であったシャイアン族の酋長、がんで余命いくばくもない彼とその家族をニューメキシコから彼らの生まれ故郷であるモンタナまで1000マイルを護送する任務に当たります。

隊長と酋長は最初、対立的ですが、今でも白人に屈服せずに開拓民を殺戮するコマンチ族が彼らを襲うようになってくると、両者は協力するようになってきます。そして騎兵隊の1員でも「先住民族に対する扱いが間違っていた」と思う者も出てきました。

西部の暴力的な無法による幾多の困難を経て、彼らの故郷に着きました。しかしそこにも農場主が「俺の土地にインディアンを入れるな」と、銃で持って立ちはだかります。そしてお決まりの銃撃戦となります。

ラストシーン、騎兵隊の英雄はスーツを着て列車に乗って東部へ向かいます。新しい時代に頁が繰られたようです。

映画の冒頭に、コマンチ族が開拓民を襲い、子どもも含めて家族が殺され、母親だけが生き残るというシーンを入れます。そして逃亡した先住民を投げ縄で捕えたり、動物のように狭い檻に入れたりしています。勇敢に戦ったシャイアン族の酋長は、白人の武力に屈したものの恬淡とした誇りを失うまいとする姿を見せ、コマンチ族を「ガラガラヘビ」と例え、騎兵隊と一緒になって彼らと戦います。

複雑な状況を描きます。

『父と暮らせば』

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DVDで医療生協の皆さんと一緒に見ました。映画サークルで上映したのは10年近く前です。4,5年前に演劇鑑賞会で芝居も見ました。映画も芝居も非常に素晴らしいものです。

井上ひさしの戯曲が非常によく出来ていて、細かい台詞のやり取りまですべて計算されています。きっと多くの被爆者を取材したと思います。

原爆投下のあと2,3年たった広島が舞台です。生き残った娘のもとに死んだ父親の「幽霊」が出てきます。父は娘の「恋の応援団長」と言います。彼女は恋をしたのですが、強烈な原爆の後遺症で、生き残ったことに罪悪感を持っています。自分が「しあわせになったらいかん」病に取りつかれていて、心の葛藤を父との会話で明らかにしていきます。

井上ひさし被爆者の心中をよく取材し、彼らの人間としての再生、恋の素晴らしさを言葉として表現しました。その際の広島弁が素晴らしいのです。

「おとったん、ありがとありました」は絶品です。私でも涙が出ました。DVDでもいいから見てください。

『米軍が最も恐れた男亀次郎の不屈の生涯』

 沖縄人民党委員長、統合して日本共産党副委員長、那覇市長、国会議員などを歴任し、戦後沖縄の政治の最前線で、沖縄の人々の命と生活を守るために、米軍と日本政府に闘いを挑み続けた男のドキュメンタリーです。

彼が非常に細かい日記をつけていたことは驚きでした。厳しい状況でも楽天的に闘い続けます。細身ですが心身ともに頑丈であったようです。

『ドッグマン』

イタリアの海辺の田舎町、廃墟のようなショッピングビルの1画で犬のトリミングサロンを営んでいる、気弱な男が暴力的な友人を殺す話です。実話に基づいていると書いてありました。

友人は落語の「らくだ」のような男で、傍若無人で乱暴者、暴力と犯罪で周囲の人々に迷惑をかけています。ですが誰も手を出しません。主人公の男も金をたかられたりするのですが「友達だ」と言われてずるずると犯罪にも協力します。

それがあまりにひどい仕打ちに耐え兼ねついにキレて犬の檻に閉じ込めて殺すに至ったというちょっと変な映画です。

腐れ縁というか友情というか、人間は誰とどのように付き合うか、あまり深く考えないのかもしれない、と思いました。

『火口の二人』

白石一文の原作、柄本。

従兄弟同士で若い時に体の関係もあった男女、女が結婚するからと田舎に帰ってきた男に、体が忘れられないから、女が1度だけとセックスを迫ります。それがずるずると行くという、きれいなポルノ映画みたいなものです。

大きな火口を撮ったポスターの上で繰り広げられる、区切りも際限もない男女の関係を描きました。悲壮さや修羅場があるわけでもない、セックスの風景です。

30年後の同窓会

題名だけ見れば「なつかしい友が集まって」という感じですが、原題は「LAST FLAG FLYING」で、30年前の戦友が集い、彼らの心の傷と、今も変わらぬ米軍の侵略性を告発しています。国家や軍隊の欺瞞性を強調しながらも、最後は尊厳ある戦死を望む親心で締めくくる映画でした。

もう少し長い感想を書きます。