2023年6月に見た映画

 ちょっと時間が出来たので、映画の感想を詳しくなくても書いていきます。何とか今年見た映画の多くを年内に書いておきたいと思いました。

 『ソフト/クワイエット』『怪物』『苦い涙』『愛する人に伝える言葉』『波紋』『探偵マーロウ』『告白、あるいは完璧な弁護』7本です。二本立てを見ていないのでよく見た方です。どれも特色ある映画でした。あまり監督で見るほうではないのですが、是枝、オゾンは追いかけています。まず3本を書きました。

『ソフト/クワイエット』

 現代米国の素顔の一面かなと思います。場所は明示されませんが、郊外の小さな田舎町のように思いました。おそらく西部か南部です。

 思想的には白人至上主義、極右、排他的な女性グループ「アリーア人の団結をめざす娘たち」が、ちょっとしたいざこざから、中国系の姉妹を惨殺してしまう、という話です。

 見ていて気分が悪くなるように作っています。それはワンシーンで一気に見せるというテクニックからだと思いました。

 彼女たちは、前科持ちもいましたが、見た目には普通の幼稚園教師や食料品店の女主、父がKKKの幹部という女もいました。彼女たちが教会の一室を借りて集まりを持ち、口汚く黒人やユダヤ系、アジア系、ヒスパニック系を罵りあいから始まりました。

 その後に、会員の店に来た生意気な中国人姉妹に思い知らそうと決めて、留守宅に入りました。そこへ姉妹が帰ってきたのです。

 米国の女性の差別と暴力が描かれました。 

『怪物』

 是枝裕和監督の映画で、脚本が坂元裕司というコンビで、カンヌ映画祭脚本賞をとりました。そういう映画です。私は評価しています。

 西神ニュータウン9条の会HPの7月号に書きました。それを載せておきます。

 カンヌ映画祭で高い評価を得た是枝裕和監督(脚本:坂元裕二)の最新作です。同じ出来事の経過を3つの視点で、繰り返し描くという手法をとった映画でした。

 まず親の視点です。

 シングルマザー(安藤サクラ)は、わが子が先生にいじめを受けている、と思い込み、説明を求めようと小学校に行きます。学校側は校長(田中裕子)や担任が対応しますが、しらじらしく機械的に謝罪の言葉を繰り返すだけで、彼女に納得いく説明をしません。

 二つ目は教師(永山瑛太)の視点です。

 教室で暴れる子どもたちを抑えようとして、誤って一人の顔に拳が当たりが鼻血を出してしまいます。担任の教師は、子どもたちの様子からいじめがあると感じました。

 鼻血を出した子どもの母親が抗議に来ると聞いて、彼女をモンスターペアレントと見なす校長たちは、担任に「何も言わずに謝れ」と言います。

 そして第3の視点は子ども達(黒川想矢、柊陽太)です。

 教室ではいじめっ子といじめられっ子の関係に見える二人は、本当は心通わす友達でした。彼らは面白がって、それを演じていたのです。

 しかも二人は、家庭でそれぞれの事情も抱えていました。親や教師をあまり信頼していません。 

恐ろしい現実

 面白半分の子どものいたずらように見えますが、教師は「体罰教師」として糾弾され辞職に追い込まれました。彼に対する風評はマスメディアやSNS等で拡散するでしょう。

 誰にも大きな悪意はなく、ただ真面目な若い教師が誤解されて首になっただけです。責任を取る者もなく、教師の失意だけが残りました。

 しかも子どもたちの本当の姿を理解しようとする大人が現れる、という終わり方でもありません。

 監視社会であり、管理する側は個人情報も収集集積しようとしていますが、それぞれの都合であり、事実の断片です。信頼を失った人間関係と、面白半分の風評の恐ろしさを感じる映画でした。 

 よく練られた脚本であり演出ですが、タイトル『怪物』の意味は明示されません。子ども二人が遊ぶゲーム「怪物だれーだ」と問いかける言葉が残りました。

『苦い涙』

 フランソワ・オゾンの映画ですが、あまり面白いとは思いませんでした。

 主人公は映画監督でバイセクシャルです。美青年に入れあげて、全ての家族関係、人間関係すらも壊してしまうという映画でした。

 わかっていても破滅に向かう人間というのは魅力的なのですが、同性愛というところに現代であり、同性愛を公言しているオゾン監督ならでは、と思いました。